青函トンネル「貨物新幹線」構想が導く鉄道の未来:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
北海道新幹線は青函トンネルを在来線の貨物列車と共用する。そのために本来の性能である時速260キロメートルを出せない。そこで国土交通省と関係各社は新幹線タイプの貨物列車を検討している。これは北海道新幹線の救済策だけではない。日本の鉄道貨物輸送の大改革につながるだろう。
貨物列車を解決できないまま北海道新幹線が開業
過去にも貨物新幹線構想は存在した。最も古い話は1958年だ。東海道新幹線で貨物輸送も計画され、国鉄が世界銀行から融資を受けるときも目論見書に載せていた。しかし予想より東海道新幹線の旅客需要が増大し、逆に高速道路やトラック輸送の発達によって貨物列車の需要が減った。東海道貨物新幹線は立ち消えとなって現在に至る。
北海道新幹線については、青函トンネルを維持管理するJR北海道が、早くから青函トンネル内の貨物列車と新幹線の競合問題に取り組んでいた。在来線貨物列車を新幹線貨物列車にまるごと乗せてしまう「トレイン・オン・トレイン」(参考動画)というシステムで、2004年には必要な特許も取得していた。当時のJR北海道は、ほかにもデュアルモードビークルやGPSを使った列車運行管理システムなどに取り組んでいた。広大な北海道で、先進の鉄道技術を開発する。それが本来のJR北海道らしい姿だと私は思う。
2012年に国土交通省が開催した「第2回整備新幹線小委員会」の配布資料には、青函トンネルの北海道新幹線と貨物列車の競合対策として、「すれ違う瞬間だけ新幹線を減速する」「貨物線用新幹線(トレイン・オン・トレイン)を開発する」「トンネル内の上下線に隔壁を設ける」の案が示された。
「すれ違う瞬間だけ新幹線を減速する」は、信号制御システムの開発が必要だが、加速と減速に時間がかかるため、投資に見合う速度向上は見込めない。「トンネル内の上下線に隔壁を設ける」は、隔壁など構造物に対して青函トンネルの強度が不足するため、トンネルの大改修が必要になる。貨物用新幹線(トレイン・オン・トレイン)も車両重量が増え重心が高くなるという欠点がある。しかし現実的な構想であった。
2004年にJR北海道が特許を取り、試験車両まで作った。ほかにも代案があっただろう。それから10年も経ったというのに、解決策を見いだせないまま北海道新幹線開業を迎えてしまった。この点について、日本の鉄道関係者、技術者、役人も含めて、恥じ、反省しなくてはいけないし、その忸怩(じくじ)たる思いも込めて、今、新たな貨物新幹線計画が進められているのだろう。
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