東電が家庭契約のシェア2割を失っても痛くない理由:電力自由化でどうなる(3/3 ページ)
2016年4月から電力自由化がいよいよスタートする。各社から新料金が出そろい始めた中、東京電力の料金プランに着目した。ここから同社の事情が見えてくる。
優良顧客の囲い込みに躍起
実は、こうした料金プランの設定には、電力会社側の事情がありそうだ。
元々、電気料金の設定は、使う人ほど料金が高く設定されるという仕組みになっている。契約アンペア数が大きくなっても割引はなく、その基本料金の増加率は一律である。そして電気を多く使用しても、使用量に応じて決まる「電力量料金」の単価は変わらない。
サービス産業の多くは、大量に使用、利用するほど、それに応じて割引が発生するものだが、電力会社にはその構図が当てはまらない。電力は安定供給することが前提となっているため、有限でもある電気を大量に使用する人たちを料金面で優遇するといったことができないのがその背景にあるからだ。
この構図では、大量に電気を利用する人ほど優良顧客であり、それが収益の源泉になっているという状況を生み出している。一方で、一人暮らしなどで電気をあまり使わない人は収益面でのメリットが少なく、関係者によると、「電気使用量が少ない契約者は、赤字になっているのが実態」との声も聞く。ほかの産業以上に、使用状況による収益の差が大きいとも言えるのだ。
そうしてみると、東京電力の今回の料金プランの設定もうなずける部分がある。
電気使用量の少ない契約者はほかの事業者に流れても構わないが、電気を多く使用する契約者は確保しておきたいという思惑が見え隠れするからだ。
一方で、新電力事業者にとっても、優良顧客を獲得したいという思いが強いのも事実。各社が、携帯電話会社やポイントカード会社との連携を強化しているのも、新規顧客獲得において、これまでの契約実績を基に、支払いなどが確かな優良顧客だけをつかまえたいという狙いがある。
電力小売り事業者の攻防は、優良顧客をどれだけ確保できるかといったところが、最初の焦点となりそうだ。
著者プロフィール
大河原克行(おおかわら かつゆき)
1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、25年以上にわたり、IT産業、電機業界を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、PC Watch(インプレス)の「パソコン業界東奔西走」をはじめ、新聞、ビジネス誌、Web媒体などで活躍。著書に、「松下からパナソニックへ 世界で戦うブランド戦略」(KADOKAWA)、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「図解 ビッグデータ早わかり」(KADOKAWA)などがある。近著は、「究め極めた『省・小・精』が未来を拓く――技術で驚きと感動をつくるエプソンブランド40年のあゆみ」(ダイヤモンド社)。
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