「着物業界」が衰退したのはなぜか? 「伝統と書いてボッタクリと読む」世界:スピン経済の歩き方(4/4 ページ)
訪日観光客の間で「着物」がブームとなっている。売り上げが低迷している着物業界にとっては千載一遇かもしれないが、浮かれていられない「不都合な真実」があるのではないだろうか。それは……。
見て見ぬふりをしている「偽善」にも目を向けるべき
最近やたらと「日本の文化はスゴい」「日本の技術が世界から大絶賛」という自画自賛の報道が目立つ。日本人としてなんとも気持ちの良いムードではあるが、「誇り」がやがて「おごり」となって、産業とそこに根付いていた文化を蝕んでいくというのは、日本の白物家電メーカーをみても明らかだ。
そんなことを言うと、「こいつは反日だ」「日本の職人をバカにするのか」と怒りに震える方たちも多いかもしれないが、実は衰退している当事者たちがそれを一番よく分かっている。
目玉が飛び出るほど高い高級な着物を仕立てる職人も、実はそれほど高い収入を得ていない。これは需要が少ないところに加えて、販売、流通などさまざまな人々が「中抜き」をしていることも大きいからだ。
そのため、アトキンソン氏は、日本の職人文化を蘇らせるため、「品質の高いものを今よりも安く、正当な価格で提供をすることで、回転率を上げる」ことを目指していくべきだといっている。つまり、いままでのような「ボッタクリ」を止めて、市場価値に見合う適正な価格にすることで需要を増やし、職人たちの仕事そのものを増やしていくべきだと主張している。
それが正論だということは当事者たちもよく分かっている。分かっているが、直視をしたくない。だから、文化財の世界の人たちの間では、こんな自虐的なジョークがあるという。
「伝統と書いてボッタクリと読む」
日本の技術はスゴい。世界に誇る歴史も文化もある。ただ、その一方でそろそろ誰もが薄々勘付いていながら、見て見ぬふりをしている「偽善」にも目を向けるべきではないのか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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