なぜいま“昭和型”の喫茶店「コメダ珈琲店」が人気なのか:新連載・高井尚之が探るヒットの裏側(2/2 ページ)
ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、人気企業・人気商品の裏側を解説する連載。今回は急成長中のコメダ珈琲店について読み解く。
10〜15年で潮流が変わった、日本のカフェの歴史
筆者は日本のカフェ・喫茶店を生活文化の視点から分析しており、テレビやラジオの放送メディアでも解説を行う。「カフェと日本人」(講談社現代新書)や「日本カフェ興亡記」(日本経済新聞出版社)といったカフェ関連の著書も上梓してきた。
筆者がコメダ珈琲店を最初に紹介した7年前、2009年3月末の店舗数は335店だった。それが2016年1月末には667店とほぼ倍増した。現在、国内で最も店舗数が多いカフェチェーンは、スターバックスの1152店(2015年11月末現在、業界関係者の取材をもとに筆者が算出)で、次いでドトールコーヒーショップの1104店(同)だが、コメダはそれに続く「国内3強」となった。上位2店とはまだ差があるが、近年の出店ペースはスターバックスコーヒーを上回る。
ところで日本のカフェ・喫茶店は、昭和30年代以降は10〜15年で人気業態の潮流が変わってきた(下記参照)。その潮流で考えると、新たな変化が始まっている。
業界の話を紹介しつつ補足説明すると、セルフカフェを日本で最初に始めたのは「ミカド珈琲」(本店は東京・日本橋)だが、80年代後半から伸長した「ドトールコーヒーショップ」(1号店は80年)が全国に浸透させた。シアトル系は現在も大人気の「スターバックスコーヒー」(同96年)や「タリーズコーヒー」(同97年)のことだ。
セルフカフェとは、お客が接客カウンターで注文し、飲食も自分で運ぶ形式だ。一方、店員が注文を取りにきて飲食を運んでくれる形式を、業界では「フルサービス」と呼ぶ。ちなみに庶民的な外食チェーン店やカラオケ店などにある自動抽出器の「ドリンクバー」は、カフェ専業ではないためセルフカフェとは呼ばれない。国内店舗数が1位のスターバックス、2位のドトールはセルフカフェで、3位のコメダ珈琲店はフルサービスだ。
ドトールが店舗拡大を続けた80年代後半から、昔ながらの街の喫茶店(フルサービス)が各地で姿を消していった。それを懐かしく思う人はいまだに多く、若い世代で「喫茶店好き」という人も目立つ。その代表的存在がコメダ珈琲店なのだろう。
フルサービスのニーズに応える
近年、フルサービスの「昭和型喫茶店」が人気なのは、いくつかの理由がある。まずは総じてセルフカフェの座席と座席の間は狭いこと。イスも固いので長時間座るとお尻が痛くなる。都心では混んでくると相席を求められる。その手の店ではくつろげないと感じる人も当然いるわけだが、コメダ珈琲店はそうした人たちのニーズにうまく応えている。
コメダ珈琲店は、座席と座席の間の仕切りも高く、ソファは長時間座っても疲れにくい。競合の「星乃珈琲店」(運営は日本レストランシステム)、「ミヤマ珈琲」(同銀座ルノアール)、「むさしの森珈琲」(同すかいらーく)といった店は、いずれもこうした路線を踏襲している。
また、別の消費者心理もある。
「企業取材の前などは、少し早めに会社を出て取材先近くにある『スターバックス』に行くことが多い。気持ちを臨戦態勢に持っていきたいからです。もしコメダが近くにあっても取材前には行きません」(ビジネス系出版社の編集者)
コメダ珈琲店の店内はホッとできるような空間だが、おしゃれ感には欠ける。平成型のカフェはスタイリッシュな店も多く、都心の店ではモバイル機器を駆使して仕事する「ノマドワーカー」の姿も目立つ。
一方、住宅街近くに店舗が多いコメダ珈琲店は、カジュアルな服装の客が多い。地域性や店の立地によって違いはあるが、平日の朝や日中は定年退職後の世代、お母さんと小さな子どもといった客が目立ち、休日には現役世代も足を運ぶ。収入が伸びない時代、フルサービス型の店は、セルフカフェに比べて商品価格が安くはないが、ドリンクとフードで1000円程度の支出ですむ「手の届くぜいたく」でもある。
今月、次のような声も聞いた。「自宅が東京板橋区なので、コメダが近くに出店して以来、よく利用します。平日は丸の内で働くので、都心とは違う空間が好きです」(アパレル企業に勤める41歳の男性)
男性でいえば、ネクタイやエリつきシャツを脱いだ後の心地よさといえばいいだろうか。次回で触れるが、コメダのコーヒーはコーヒー通をうならせるものではなく、フードメニューも安いとはいえない。だが、もともと名古屋圏では、気軽に入れる店として支持されてきた。コメダ人気は、現代社会における「スタイリッシュ疲れ」の象徴かもしれない。
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