ついに「10速オートマ」の時代が始まる:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)
オートマ車の変革スピードが加速している。以前は4段ギア程度がわりと一般的だったが、今では5段、6段も珍しくない。ついにはホンダが10段のトルコンステップATを準備中なのだ。いったい何が起きているのか。
自動車の変速機の多段化がまたひとつ進もうとしている。
ホンダは何と10段ものギヤを持つトルコンステップATを準備中である。これまで最も多段化が進んでいたのはダイムラー(ベンツ)の縦置き9段とZFの横置き9段で、共にデビューは2013年のことだった。少し前まで4段程度のオートマはたくさんあった。しかし今や5段、6段では多段とは感じない。7段あたりからようやく多段ミッションという印象にさま変わりしているのだ。
「ギヤの段数なんてそんなに多くなくて良いんじゃないの?」と思う方も多いだろう。正直、数字だけ聞いていると無意味な競争に聞こえるのは確かだ。しかし、実はこの多段化はエンジニアリング的に大きな意味があるのだ。特に昨今流行の小排気量ターボとの組み合わせによって低燃費を実現しようと思えば多段化は必須とも言える。今回はその理由と存在意義について考えてみたい。
トランスミッションのコペルニクス的転換
クルマ好きの人はよく「ギヤ比がクロスだ」とか「ギヤ比がワイドだ」という言い方をする。これは要するに、刻みが細かいか粗いかという話だ。ちょっとたとえ話をしてみよう。1メートルの高さを3つの階段で刻めば1段は33センチになる。5段で刻めば20センチ。3段の方がワイドで5段の方がクロス。だからギヤの段数は多い方がクロスになる。
かつてはこれが常識だったのだが、昨今の多段トランスミッションにはこの考え方は通用しない。何が違うかというと、同じ高低差の中で刻みを変えるのではなく、トータルの高低差を大きくしているのだ。20センチの刻みが5段なら1メートルだが、6段に増やせば1.2メートル、10段あれば2メートルになる。
この「トータルの高さ」が実際のギヤで何を意味するかと言えば、要するに1速のギヤ比に対してトップギヤのギヤ比が何倍あるかだ。これをレシオカバレッジと言う。つまり「ギヤ比のカバー範囲=階段最上段までの高低差」がワイドになることをレシオカバレッジが大きくなると言うのだ。これは先ほどの「クロス」と「ワイド」で言うところの刻み数(1段あたりの段差)とは別なので注意してほしい。
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