北陸新幹線延伸ルートは「JR西日本案」が正解:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
北陸新幹線延伸ルートの年内確定に向けた動きが活発になっている。2013年に与党検討委員会は3つのルートに絞り込んだ。しかし2015年8月にJR西日本から小浜・京都ルート、11月に与党検討委員長からは舞鶴・京都・関空ルートが示された。絞り込むどころか選択肢が増えている。ただし、このうち国益に沿うルートは1つしかない。
小浜〜京都〜大阪ルートに賛成する
JR西日本が提案する小浜〜京都〜大阪ルートは、報道では「新小浜ルート」とも表される。整備計画の基本ルート「小浜ルート」は、小浜〜大阪の直行だ。JR西日本案は小浜から南下し、大津市と京都駅を経由するルートだ。JR西日本はその理由を「北陸〜京都間の旅客需要に配慮」とした。
JR西日本が2015年8月に表明した内部案。小浜ルートを京都経由に変更したルート。小浜ルートの東海道新幹線を経由しないメリットに加えて、京都経由となれば需要喚起、経営面でもメリットがある。細い点線で示した琵琶湖若狭湾快速鉄道の利点も実現できる
この案は検討に値する。京都〜大阪間を大深度地下による独自ルートとし、大阪の結節点を新大阪駅以西とすれば、東海道新幹線のダイヤには触らずに済む。建設費はかさむかもしれないが、JR西日本としては京都〜大阪間の利益を東海道新幹線に奪われずに済む。経営上の利点もある。
これは整備新幹線の主旨「東海道新幹線の二重化」に沿う。前述のように、リニア中央新幹線によって二重化の意味合いは薄れたとしても、北陸〜近畿のスムーズな連絡には効果的だ。山陽・九州方面と京都・北陸方面を直通できるというメリットも大きい。こうした広域輸送の整備は国益に適う。
国益とは離れるけれども、若狭湾地域と近畿圏を速達させる地域輸送のメリットもある。若狭湾の小浜市と福井県は、琵琶湖若狭湾快速鉄道の早期実現を求めている。この路線はまさに小浜〜京都・大阪間の速達を目指している。北陸新幹線・新小浜ルートは琵琶湖若狭湾快速鉄道の目的を達成できる。
琵琶湖若狭湾快速鉄道は、小浜線の上中駅と湖西線の近江今津駅を結ぶ約19.8キロメートルのルートだ。国道303号線若狭街道に沿う。山越えのためトンネル区間が多く、概算事業費は約424億円という。現在、小浜〜京都間は舞鶴迂回経由で2時間42分、敦賀迂回経由で1時間55分かかる。琵琶湖若狭湾快速鉄道は直行ルートで55分と見込んでいる。
この路線については福井県や小浜市が積極的だ。しかし、琵琶湖側の滋賀県は消極的なため、計画自体が停滞している。滋賀県としては小浜への時間短縮の意味は小さいから、消極的で当然と言える。この温度差は鉄道路線の起点駅のある自治体と終点駅のある自治体では共通の事象だ。長崎新幹線(九州新幹線西九州ルート)の長崎県と佐賀県の温度差にも通じる(関連記事)。
新小浜ルートは琵琶湖若狭湾快速鉄道の発展系とも言える。在来線ではなく新幹線だから、在来線並みの運賃を期待した小浜市側としては腑に落ちないかもしれない。しかし、京都へ1時間以内という所要時間は、新幹線規格のおかげでさらに短縮されるだろう。時間短縮メリットは魅力的なはずだ。
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