北海道新幹線、JR北海道のH5系電車が2本しか稼働しないワケ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
北海道新幹線がらみのビジネスの話題をお伝えしたかったけれど、私の情報力不足のせいかネタが少ない。そこで、今回は鉄道ビジネスの慣例を1つ紹介しよう。鉄道業界で古くから行われている「物々交換」だ。鉄道会社同士で「ある取引」を精算するとき、資金を移動させない方法がある。
微調整も「精算運転」で
ただし、H5系を増やしすぎると、お互いの走行距離バランスが崩れる。北海道新幹線は短いし、設定本数も少ないから、H5系を増やすとE5系の出番が減ってしまう。従って、E5系は28編成もあるけれど、H5系は2編成の運行でバランスが取れる。あとはローテーションの都合で、救援待機用と検査用の2本が必要だ。つまりH5系は4編成でちょうど良いというわけだ。
ちなみに、定期列車で考えると、H5系が1日に東北新幹線を走る距離は3往復分で4049.4キロメートル。E5系が北海道新幹線を走る距離は11往復分で3273.6キロメートル。近い距離だけど等距離ではない。東京〜新函館北斗の片道1本分の差がある。しかし、片道1本分だけ運行するわけにはいかない。毎日同じダイヤだから、上り1本と下り1本だけ隔日運行というわけにもいかない。
そこでどうするか。臨時列車などで精算しても良いし、ピッタリ精算できる距離になったら、精算のために使用車両を交換する方法もある。普段H5系で走らせる列車をE5系に変更して、運行距離の差を等しくするわけだ。そのためにもH5系の待機用編成は必要になる。
こうした精算運転は大都市の私鉄と地下鉄などでも行われている。例えば、京浜急行線内で京成電鉄の車両に乗った。京成電鉄の車両だから、千葉県の自宅最寄り駅まで行ってくれるだろうと思ったら品川止まり。その後、京急の車庫に入ってしまった。つまり、京急の車両が京成線内の走行距離を超過したため、京成電車を京急区間内だけ走らせて「精算」しているわけだ。自社に戻れない車両の悲劇。出向先から本社に戻れない人みたいで、ちょっと気の毒だ。
もしあなたがA社に出向を命じられ、特技に関係ない仕事をさせられた場合。A社があなたを必要としていたとは限らない。あなたの会社がA社の特技を持つ社員を必要としており、あなたは両者の給与精算用の交換要員というわけだ。給料の精算が面倒だから、似たような給与体系の社員を差し向けますよ……なんちゃって。
まさか人事で貸し借りや精算はないと思うけれど、鉄道会社の相互直通運転の走行距離精算は、ほかの企業でも自動車や設備の貸し借りに応用できそうな仕組みである。
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