作られた「高齢者像」を鵜呑みにするな(1/2 ページ)
高齢者白書などが発表された際、「大変だ」「かわいそうだ」という点だけに焦点が当たったニュースになってしまっている。しかし……。
著者プロフィール:
川口雅裕(かわぐち・まさひろ)
組織人事コンサルタント (コラムニスト、老いの工学研究所 研究員、人と組織の活性化研究会・世話人)
1988年株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報および経営企画を担当。2003年より組織人事コンサルティング、研修、講演などの活動を行う。
京都大学教育学部卒。著書:「だから社員が育たない」(労働調査会)、「顧客満足はなぜ実現しないのか〜みつばちマッチの物語」(JDC出版)
熊本地震では、メディアの報道姿勢や報道内容に対する批判が多くあった。記者やカメラマンが大挙して押し寄せて避難所の人たちの邪魔になる、報道ヘリの音が救出活動を妨げる、大変な状況にある人への配慮に欠けたインタビューをする、ガソリンスタンドに並ぶ列への割り込みのほか、倒壊しそうな家の前でカメラが待ち構えるといったこともあったようだ。支援物資を送るとか、ボランティア・寄付など何とか役に立ちたいと考える人への情報提供が乏しく、伝えるべき内容がズレているという指摘もあった。
こうなる理由は、誰にでも分かりやすい。インパクトのある映像が欲しい、被災者の困難がリアルに伝わる声やエピソードが欲しいからで、目的が視聴率を稼ぐ、販売部数を伸ばすことにあるからだ。救出・救援・支援を目的にしていたら、もちろんこうはならない。
問題は、今回のような緊急時においても公共性より株式会社として収益性を優先してしまっていることだが、行き過ぎると、メディアにとって災害の規模は大きければ大きいほどよく、被災者は可哀想であればあるほど良い(ネタとしてオイシイ)ということになりかねない。実際に、今回の報道を見ていると被災者は被災者らしくしてほしい、元気で活き活きした被災者でなく、どこかにもっと悲惨な被災者はいないものか……といった視点を感じてしまう。
高齢者についても、同じことだ。メディア自身が勝手に描いた「困難を抱える可哀想な高齢者像」があり、それに相応しい人を見つけ出しては取り上げる。重度の要介護老人や生活保護を受ける高齢者らを頻繁に取り上げて、悲惨だ、可哀想だ、大変な問題だと結論づける。ニュースを受け取る側もそういう人を見たい(自分の優位なポジションを確認したい)からか、可哀想であるほうが数字につながる。
高齢者の中には、高齢者は悲惨で可哀想だという報道がなされ、弱い者扱いされるほうが得だと考える人もいるかもしれず、そういう人たちはメディアが描く「困難を抱える可哀想な高齢者像」は有難いことだろう。メディアも株式会社として、得意客の期待に応えざるを得ない。高齢者や高齢社会に対するネガティブなイメージは、このような報道によるものと言ってよい。
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