燃費のウソとホントと詳細:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
この数週間、自動車メーカーの燃費不正問題に話題が集中しているが、その議論に関して混乱が見られるのではと感じている。なぜカタログ燃費と実燃費が乖離しがちなのか、この点も整理したい。
エネルギー減衰の話題に関して、空力以外では転がり抵抗がある。回転部分の軸受けは耐荷重を大きく取ると、どうしてもサイズが大きくなり転がり抵抗が増える。だから余剰をとことんまで削減して部品を小さくする。これは支持剛性とトレードオフなので、振動を抑えきれず低周波の音源になったり、タイヤの保持剛性が落ちたりして、乗り心地やハンドリングにネガティブな影響を与える。そのせめぎ合いのところでどうやって抵抗を減らすかの努力が行われている。
面白いのはブレーキだ。近年の自動車に採用されているディスクブレーキは、ブレーキペダルに取り付けられたピストンがタンクの油を押し出し、その油圧が管を経由してブレーキキャリパーに仕込まれたピストンを押し出し、ピストンに押されたブレーキパッドがブレーキローターを挟み込むという仕組みだ。ペダルがリリースされて油圧が解放されたとき、ゴムでできたキャリパーシールのよじれがキャリパーピストンを元の位置に戻す。しかしその戻り量はわずかで、ブレーキパッドはローターと常にわずかながら摩擦し続けている。
こうしたブレーキの引きずりは、当然、燃費に悪影響を及ぼす。パッドを何らかの仕掛けで強制的に押し戻してやればブレーキの引きずりが減って燃費が良くなるはずである。ただし、クリアランスが大きくなると、ブレーキペダルを踏んでから、実際に効くまでのペダルストロークが増え、その結果ブレーキの効き始めが遅くなる。
引きずりをなくしつつブレーキ操作に不具合を出さないためには、クリアランスをミクロン単位で調整して緻密にコントロールする必要がある。さらにはドライバーがブレーキペダルに力を掛けた瞬間に、ブレーキパッドのクリアランス分をあらかじめ押し出す仕組みなども採用されている。
パワステを中心に、エアコン、冷却水などのポンプ類の無駄の軽減も積極的に行われている。かつてのクルマでは、こうした補機はエンジンが掛かっている間中回しっぱなしだった。最近では必要とする状況かどうかを見極めて無駄なエネルギー消費を極力抑える仕組みが次々と採用されている。そのために制御のし易い電動化が行われている。そのくらいやらないと達成できない水準で現在の燃費競争は行われているのだ。
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