燃費のウソとホントと詳細:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
この数週間、自動車メーカーの燃費不正問題に話題が集中しているが、その議論に関して混乱が見られるのではと感じている。なぜカタログ燃費と実燃費が乖離しがちなのか、この点も整理したい。
可変制御の恩恵と落とし穴
だから、そういう可変制御が効率良く使える状態で運転すれば発表値を超える燃費を出すことが可能だし、可変機構が効かない領域ばかりを使っていれば、燃費はどこまででも悪化する。つまり燃費が運転の仕方に依存する度合いがどんどん高まっている。だから人によって燃費の差が出やすくなっているのだ。
一方で、こうやって盛り込んだエコデバイスがJC08モードでできる限り効果を発揮するようにメーカーは知恵を絞っている。オンオフの制御をできる限りテストの条件に合わせ込んでいると言っても良い。うがった言い方をすればお受験対策だ。そういうテスト対策によって、実際の走行時にエコデバイスがかえって効果を発揮しにくくなったり、ドライバビリティにマイナスの影響を与えたりしていることは否めない。
さまざまな意味で、クルマのドライバビリティにカタログ燃費が影を落としている現状はあまり理想的だとは言えない。まずは消費者がカタログ燃費のことを良く理解することが必要だ。役所もメーカーも、ごまかしの意図があってやっているとは思わないが、あれは頑張って作り出した1つの実走行シミュレーションであって、カタログに書かれている燃費のコンマ1ケタの差など、現実世界では誤差に過ぎない。参考にするなとは言わないが、絶対的な数値だと思ってはいけない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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