2度死んだ観光車両、3度目の再生はあるのか?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/3 ページ)
全国で登場した観光列車のほとんどは旧型車両の改造車だ。現在も華々しく新しい列車が発表される一方で、実は廃車も始まっている。走行には耐えられないとしても内装は新しい。そんな観光車両はどうなるか。3度目の再生はあるだろうか。
「観光車両の寿命」=「観光列車の寿命」ではない
観光列車が続々と誕生する中で、改造型観光列車の廃止は始まったばかり。これからも老朽化して引退する列車は増えていくだろう。そこで、観光列車を運行する鉄道会社は2つの問題に直面する。1つは、前述のように引退する観光車両をどのように処遇するか。もう1つは、観光列車そのものを存続できるか。
くま川鉄道の場合、KUMA1、KUMA2は引退する。しかし、水戸岡鋭治デザインの新型車両「KT-500形」を5両導入した。KT-500形は普通列車として運行しつつ、3両編成の観光列車「田園シンフォニー」として運行する。田園シンフォニーとして運行する場合は運賃のほかに300円の座席指定料金が必要だ。軽食や土産品の販売も行うなど、客単価を上げる工夫が見られる。KUMA1、KUMA2で成功した団体集客を引き継いで、さらなる観光収入を目指す。
私は昨年、「観光列車のほとんどは1代限り」と書いた。余剰車両を改造した観光列車は低コストだからこそ導入できたわけで、その車両が老朽化して引退する場合、次に使う車両はない。観光列車を存続させるには、新型車両を導入するしかない。しかしそのコストは改造費用の10倍は必要になる。それができる観光列車と、できない観光列車がある。
その意味で、くま川鉄道は賢い。「観光列車を新車にする」ではなく、すべての一般車両を新車に更新し、観光車両としても使えるようなデザインにしたからだ。この方法なら、老朽化車両の更新となり、国の助成制度を利用できる。
国の「地域公共交通確保維持改善事業費補助金」制度は、「安全な鉄道輸送を確保するため、地域鉄道事業者が行う、安全性の向上に資する設備の整備に必要な経費の一部を補助する」という趣旨だ。これは線路設備だけではなく、老朽化車両の更新にも適用される。ただし、「観光車両を追加導入する」では安全性とは関係ない。付加価値を付与する形になるため助成制度を利用しにくい。
新しい観光列車をどのように導入するか。引退した観光車両をどのように活用するか。これからは新しい観光列車だけではなく、老朽化し引退の節目を迎える観光車両にも注目したい。その処遇に、鉄道会社の観光列車に対する考え方が表れる。
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