地方鉄道存続問題、黒字化・公営化・貢献化ではない「第4の道」とは?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
赤字事業は廃止、赤字会社は解散。資本主義ではそれが正しい判断だ。しかし鉄道やバスなどの交通事業では簡単に割り切れない。沿線住民や観光客の足として地域に貢献するという「公共性」が問われる。ただし、存続のための選択肢はわずかしかない。
第4の選択案――交通ユニバーサルサービス制度の創設
第4の選択肢は、貢献化の視野を広く取った考え方だ。地域どころではない。「ローカル鉄道と言えども国益に貢献しますよ」として、国の支援を取り付ける。国として、全国隅々に渡る鉄道ネットワークは維持すべきだ、という考え方である。なぜ、日本全国に鉄道ネットワークが必要か。田中角栄元首相がかつて主張した「国土の均等な発展のため」である。
地方再生の精神に則り、道路と鉄道を主要都市とその周辺に整備しなくてはいけない。道路には自動車税、揮発油税など、全国民から財源を徴収するシステムがある。鉄道にはない。ならば創設してはどうか。
電話料金に課せられた「ユニバーサルサービス料金」のように、大都市圏も含めて、すべての鉄道利用者から一定の料金を徴収し、地方鉄道路線の整備を行う。総務省が電話サービスで実施するユニバーサルサービスは、総務大臣が認可した機関が対象となる通信事業者から一定の料金を徴収し、NTT東西に配分する制度だ。NTT東西は配分された資金を、地方の通信ネットワークの整備と維持に使う。
電話事業が電電公社を継承したNTT東西の独占状態だったころは、都市部の利益を留保して地方の電話サービスを維持してきた。しかし、規制緩和によって電話事業に多くの会社が参入すると、新規参入組は採算を取りやすい都市部を中心に展開した。NTT東西は都市部で競争にさらされ、地方の電話回線の整備と維持が難しくなった。
そこで、NTT東西が地方の通信回線を維持するためのコストを、NTT東西以外の事業者も負担する「ユニバーサルサービス制度」が2002年度に創設された。反対意見もあったけれど、2006年度から実施され、私たちの電話料金の明細書には「ユニバーサルサービス料金」とう項目がある。制度としては通信事業者が負担する仕組みだけど、実際には利用者に転嫁されているからだ。
この「NTT」を「JRと大手私鉄」に、「地方の通信回線」を「地方の鉄道」に置き換えたらどうだろう。地方鉄道に潤沢(じゅんたく)な資金が提供され、安全性は高まり、列車の運行頻度が高まって、便利な地域になれば沿線人口も増えるかもしれない。ただし、支援に頼った鉄道経営は向上心をなくす恐れもある。
それでも、国が本気で地方創生を考えるなら、検討の価値はあると思う。地方鉄道だけではない。トラックドライバー不足に対応するための貨物鉄道の再生にしても、地方の鉄道は活用できるはずだ。そのためにも、国が国土の交通問題に対して毅然とした態度や政策を打ち出さなくてはいけない。
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