なぜ、山手線に観光列車が走らないのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
全国各地で観光列車が続々と誕生している。しかし運行路線は都会から離れたところばかり。もっと乗客を見込めそうな路線、例えば、山手線や大阪環状線、地下鉄で走らせたら成功するはずだ。しかし、こうした「一等地路線」に観光列車は適していない。その理由もレジャー産業の定石が教えてくれる。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
北海道版「ななつ星in九州」の要望も
今年3月の北海道新幹線の開業を控え、北海道の観光ビジネスに注目が集まっている。
北海道新幹線はとりあえず新函館北斗まで開通するが、ここは広大な北海道の入り口に過ぎない。ただし、JR北海道は函館〜新函館北斗〜札幌間の特急「北斗」「スーパー北斗」を増発する予定だし、札幌と函館を結ぶ高速バスも新函館北斗を経由する。
私の知人が新函館北斗発の一番列車を狙って北海道へ渡ろうとしたら、既に北海道新幹線の開業日前日のホテルに空きがなかった。しかし一番列車の出発は見届けたい。そこで彼が考えたルートは、前日に旅客機で新千歳空港へ飛び、札幌から函館行きの夜行バスのチケットを取った。このバスは翌朝5時ごろに新函館北斗駅前に着くから、東京行き「はやぶさ」の始発列車に十分間に合う。このバスは開業日ではなくても、今後、札幌〜本州間で使えるルートだ。本当はJR北海道に札幌〜函館間で夜行列車を運行してほしかったけれど、そこまで需要予測は立たないのか。もったいない。
JR北海道は新幹線と安全への投資に集中し、観光列車は削減する方向だ。しかし、北海道と自治体側は観光列車を望む声が高まっている。例えば、オホーツク海沿岸を走る「流氷ノロッコ号」について、JR北海道は「機関車の老朽化で来期の運行が難しい」と沿線自治体に伝えた。その発言を受けた自治体が「別の観光列車を走らせてほしい」と要望している。流氷ノロッコ号は今、日本国内の需要よりも、中国、台湾からのインバウンドの受け皿という意味合いが強くなっている。JR北海道も中国語通訳を乗務させて対応しているほどだ。
北海道版「ななつ星in九州」というべき豪華観光列車の要望もある。2月3日午前、道東地域の白糠町や本別町、道北の豊富町など5つの町の首長が北海道庁を訪れ、道東や道北を巡る豪華観光列車の提言書を高橋はるみ知事に提出した。知事は午後の記者会見で、長期的な課題として取り組み、今年度の補正予算案に調査費などを盛り込む考えを明らかにした。翌日4日の北海道新聞は「道が26日開会予定の定例道議会に提出する本年度補正予算案に調査費約800万円を計上する方向」と報じている。意思決定の速さに驚く。
JR北海道は全路線が赤字という厳しい経営状況だ。道内の453駅のうち、年間平均乗降客が1人以下が58駅。10人以下が101駅。これだけ乗客が少ない路線で、観光列車を走らせて集客できるか、という疑問もわくだろう。しかし、レジャー産業の視点で見れば、こうした閑散路線こそ好立地だ。東京・大阪などの人口が多い地域よりもビジネスチャンスがある。
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