なぜ、山手線に観光列車が走らないのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
全国各地で観光列車が続々と誕生している。しかし運行路線は都会から離れたところばかり。もっと乗客を見込めそうな路線、例えば、山手線や大阪環状線、地下鉄で走らせたら成功するはずだ。しかし、こうした「一等地路線」に観光列車は適していない。その理由もレジャー産業の定石が教えてくれる。
山手線という「一等地」に観光列車は不要
全国で観光列車が続々と誕生している。しかし、どれも三大都市圏から離れた路線を走っている。JR北海道の流氷ノロッコは札幌からも300キロメートル以上、JR九州の「指宿のたまて箱」は博多から280キロメートル以上も離れている。起点駅が空港のある中核都市であれば乗りやすいけれど、東北や中国地方には、かなり集客に苦労しそうな列車もある。しかし実際のところ、運行が続いている状況を見ると、成功しているとみて良さそうだ。
そんなに苦労しなくても、人口が多く乗客を見込める大都市で観光列車を運行すればいい。もっともうかるはずだ。その通りである。しかし、大都市で観光列車は走らない。例外があるとすれば、博多を発着する「ななつ星in九州」や、JR西日本が運行する「特別なトワイライトエクスプレス」の大阪・京都発着などだ。しかし、これらの列車のメインとなる運行地域は都市圏外であり、博多や大阪の発着は、乗客を送迎する意味しかない。
なぜ、山手線や大阪環状線、東京メトロや各地の地下鉄で観光列車を走らせないか。「普段と同じ街の景色ではおもしろくない」「乗車時間が短い」という見方もできる。しかし、観光列車の主な要素は車窓の景色だけではない。熊本から天草方面へ向かう観光列車「A列車で行こう」のメインテーマは「音楽と酒」で、車内はBARである。その空間を楽しむ人の中には、景色を問わない人もいるだろう。車窓という「動く風景画」がある空間として列車を楽しむ。それで十分だ。
それなら、都会型観光列車も考えられる。山手線や大阪環状線の電車にBARラウンジカーや食堂車を連結して周回させてもいいし、地下鉄なら往復させてもいい。窓のないレストランやBARなんて都会では珍しくない。むしろ壁を使った装飾で勝負する店舗もある。
しかし、大都市圏の通勤路線は観光列車には向かない。理由は簡単だ。手間をかけたほど儲からないし、そもそも通勤路線に観光列車という付加価値を与える必要はないからだ。
乗車率の高い通勤路線の場合、レストランやバー車両のように定員の少ない車両を入れても儲からない。定期券の乗客をギュッと詰め込んだほうが利益率が高い。車両を追加するなら通勤車両だ。それで混雑が緩和されると、ほかの路線からの乗客流入を期待できる。都心の通勤路線は、いわば都心のビルの一等地だ。便利と言うだけで、テナントとして飲食店より手間のかからないオフィスが入居してくれる。
つまり、通勤路線として売り上げを増やす手段があり、集客のための観光的な付加価値は不要。増結しても通勤客で満たされる。テナントビルに例えると、増床しても飲食店である必要はなく、オフィスが入ってくれるというわけだ。
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