熊本電鉄が地下鉄電車を走らせる理由:杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)
今、地方電鉄会社の悩みのタネは「中古電車不足」だ。新しい電車を買うおカネはないから、JRや大手私鉄の中古電車を買いたい。ところが、地方電鉄の設備に見合う中古電車が激減しており、争奪戦の様相だ。長期的に見れば路線を改良したほうが安上がりかもしれない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
熊本電鉄が運行していた電車「青ガエル」2両のうち1両が老朽化のため引退する。代わりに調達される電車は、何と地下鉄銀座線で活躍した「01系」だ。台車を履き替え、パンタグラフを取り付けるなどの大改造を施した。大変な手間だけど、それでも新車を買うより安いらしい。
熊本電鉄の青ガエルこと「5000系」は、元は東急電鉄の車両だ。東急電鉄時代から青ガエルの愛称で親しまれていた。現在、渋谷駅のハチ公前広場で展示されている電車と同型だ。東急電鉄は早期にステンレスカーへの移行が完了したから、渋谷駅前の青ガエルにはレトロな雰囲気がある。東急沿線の人々にとっては、まだ熊本で走っているという事実のほうが驚きかもしれない。なにしろ製造は昭和29(1954)年から昭和34(1959)年。「もはや戦後ではない」が流行語になったころである。
青ガエルは中古市場でも人気の電車だった。東急電鉄がステンレス車体へ舵を切った後、5000系は福島交通、長野電鉄、上田交通、松本電鉄、岳南鉄道、熊本電鉄へ譲渡された。譲渡された車両のほとんどは老朽化のためその地で廃車となった。渋谷のハチ公前に飾っている電車は、上田交通に譲渡されたトップナンバーの里帰りである。
熊本電鉄の5000系は現役最後の2台で、そのうち1台が2015年度中に引退する。もう1台も今年秋頃までに引退予定である。熊本電鉄は「最後の青ガエル」として鉄道ファンにアピールし、観光にも一役買っている。しかし南国熊本なのに冷房もなく、普段の利用者にとっては厳しい車両だったと思う。
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