熊本電鉄が地下鉄電車を走らせる理由:杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)
今、地方電鉄会社の悩みのタネは「中古電車不足」だ。新しい電車を買うおカネはないから、JRや大手私鉄の中古電車を買いたい。ところが、地方電鉄の設備に見合う中古電車が激減しており、争奪戦の様相だ。長期的に見れば路線を改良したほうが安上がりかもしれない。
地方私鉄に人気の「中型電車」
クルマの中古車が売れているように、中古電車もニーズが高い。最大の理由はクルマと同じで購入費用の安さ。次に国土交通省への形式認定が通りやすい。すでに他社で運用しているからだ。これも車検済みの中古車のメリットに通じるものがある。しかし、デメリットにも共通点がある。「ユーザーにとって適した出物がなかなか見つからない」だ。中古電車は近年、ますます出物が減っている。
青ガエルの人気の理由の1つは、「車体の大きさ」だった。日本の電車のサイズは大きく4つに分類できる。全長25メートル級の新幹線フルサイズ、在来線では全長20メートル級の「大型車」と全長18メートル級の「中型車」、そして13メートル級以下の路面電車サイズだ。青ガエルは中型車である。地方鉄道のほとんどの路線は中型車が使われている。建設当時はそれが日本の電車の標準サイズだった。例外は国鉄の大型車両が乗り入れた経緯がある路線くらいだろう。
中型車は長らく日本の標準サイズだったから、異なる会社間でも譲渡が盛んだった。物資不足の戦後には国鉄の車両が大手私鉄に払い下げられた例もあるし、大手私鉄で活躍した車両が地方私鉄に譲渡される事例も多い。景気の良い時代は自社で新車を導入していた地方鉄道も、過疎化などで経営が厳しくなると中古車を導入した。大手私鉄は輸送強化のために大型車への切り替えを進めたから、中型車の出物も多かった。
しかし、大手私鉄が大型電車へ切り替えれば、新しく中型電車を作る必要がなくなる。こうして「中型電車の中古車不足」が始まった。大手私鉄のうち、中型電車の新車を導入する鉄道会社は、東急電鉄(池上線・多摩川線)、京王電鉄(井の頭線)、京急電鉄、京成電鉄グループ各社と、東京メトロなどの地下鉄くらいだ。
このうち、地方鉄道が導入しやすい車両は、軌間が同じ東急電鉄と京王電鉄の電車である。東急電鉄の7000系、7200系、京王電鉄の3000系は全国の地方私鉄に譲渡された。大井川鐵道では、つい最近、7200系の運行が始まった。この車両は十和田観光電鉄に譲渡され、路線廃止によって保管されていた車両を譲り受けている。豊橋鉄道は全車がこのタイプだ。しかし、これらも老朽化によって引退する車両が出てくるだろう。
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