熊本電鉄が地下鉄電車を走らせる理由:杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)
今、地方電鉄会社の悩みのタネは「中古電車不足」だ。新しい電車を買うおカネはないから、JRや大手私鉄の中古電車を買いたい。ところが、地方電鉄の設備に見合う中古電車が激減しており、争奪戦の様相だ。長期的に見れば路線を改良したほうが安上がりかもしれない。
深刻な中型電車不足
地方私鉄の車両入れ替えのタイミングはさまざまだ。そして今、中古電車の出物は少ない。京王電鉄井の頭線は新車への入れ替えか終わったばかりで、今後20年くらいは中古電車の放出がなさそう。東急電鉄は田園都市線や東横線で使っていた中型電車を池上線や多摩川線で転用していたけれど、そのタネ車も減って新車を導入している。中古になる時期はずっと先。そもそも東急電鉄は電車を長く使う会社である。かつて子会社だった東急車輌(現:総合車両製作所横浜事業所)が、日本で初めて製造したステンレス車両の耐久性を、自社運用で証明しているのが象徴的だ。
今人気の中型電車といえば、東急電鉄の1000系である。東横線の地下鉄日比谷線直通車両として1988年から製造された。もちろん丈夫で長持ちなステンレス製だ。ところが、東横線渋谷駅の地下化、東京メトロ副都心線との直通運転を機に、東横線と東京メトロ日比谷線の直通運転が終了し、東横線は全車が大型車になった。余剰となった1000系は池上線、多摩川線に転出して、もっと古い電車と交換されたほか、地方鉄道へ譲渡されている。
東急1000系は、数少ない中型中古電車だ。長野県の上田電鉄、三重県の伊賀鉄道、島根県の一畑電車に譲渡されている。しかし人気なので中古の出物が足りなくなった。一畑電車は老朽化車両を更新しようとしたけれど、予定した1000系中古電車を確保できなかった。やむを得ず、古い電車のうち状態の良いモノを延命し、それでも足りない最小限の数だけ新車で補う方針だ。国や県の補助を受けている手前、一挙に新車4両を導入できず、2015年度は1両だけ。2016年度は2両、2017年度に1両という予定である。
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