熊本電鉄が地下鉄電車を走らせる理由:杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)
今、地方電鉄会社の悩みのタネは「中古電車不足」だ。新しい電車を買うおカネはないから、JRや大手私鉄の中古電車を買いたい。ところが、地方電鉄の設備に見合う中古電車が激減しており、争奪戦の様相だ。長期的に見れば路線を改良したほうが安上がりかもしれない。
地下鉄電車大改造は苦肉の策
地方電鉄が欲しい中古電車は中型。しかし大手私鉄は大型電車への切り替えが進み、中型電車の新車が少ない。そうなると将来的に中型電車の中古も減る。だから大手私鉄の中型電車の引退車両は争奪戦となり、熊本電鉄のように地下鉄電車を大改造する例も出てくる。熊本電鉄も、本当は東急1000系が欲しかっただろう。ところが出物がないし、状態の良い中古電車は価格も高い。地下鉄電車の導入は苦肉の策といえる。
熊本電鉄と地下鉄銀座線は車両の規格が異なる。共通点と言えば、車体のサイズとモーターの電圧(600V)くらいだ。軌間は熊本電鉄の1067ミリメートルに対して銀座線は1435ミリメートル。だからまず台車を交換する必要がある。ネットに上がっている情報によると、他の中古電車からの流用ではなく、世界初のCFRP(素繊維強化プラスチック)製台車「efWING」(川崎重工製)が装着されたようだ。(参考リンク)
電気を取り込む方式も、熊本電鉄は架線、銀座線は線路脇の第三軌条だった。従って屋根上にパンタグラフが必要になる。1000系なら電圧変更に伴う動力系と信号装置なと電装品の交換程度で済んだ。ほかにワンマン運転用の装備も必要だけど、これはどの中古電車を買っても同じだ。地下鉄電車の「地上向け大改造」は過去に例がある。「ぬれせんべい」で有名になった千葉県の銚子電鉄や、既に廃止された茨城県の日立電鉄も地下鉄改造電車を使っていた。かなりレアケースだった。
地下鉄銀座線01系は6両から2両編成に短縮されて熊本電鉄に導入される。熊本電鉄5000系は1両単行電車だ。実はこの5000系も1両で運行するために、片側に運転席を増設するという大改造を実施している。今回は運転台増設は実施せず、先頭車2両編成となった。改造費と、今後の2両運用のコストを考慮した結果だろう。01系は5000系に比べて省エネになるから、運行コストは下がると見込んだかもしれない。この機会に乗客を増やそうという前向きな考えになるとなお良い。
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