熊本電鉄が地下鉄電車を走らせる理由:杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)
今、地方電鉄会社の悩みのタネは「中古電車不足」だ。新しい電車を買うおカネはないから、JRや大手私鉄の中古電車を買いたい。ところが、地方電鉄の設備に見合う中古電車が激減しており、争奪戦の様相だ。長期的に見れば路線を改良したほうが安上がりかもしれない。
線路を大型車に合わせたほうが……
長期的に見ると、今後、中型の中古電車の出物はますます少なくなりそうだ。東京メトロ日比谷線は中型電車で運行しているけれど、2016年度から大型車への置き換えが始まる。このときに中型中古電車が大量に発生するから、一時的に出物が増える。地方鉄道の中には、今からその中古車に注目している会社もあるだろう。東京メトロ日比谷線用03系、東武鉄道の日比谷線乗り入れ車両20000系の動向は鉄道ファンとしても気になる。
しかし、中古電車の大量放出はここまで。供給元が減るから、中古中型電車の争奪戦が激しくなりそうだ。その対策をどうするか。例えば、静岡鉄道の場合、1973年以降は新車を導入している。その車両たちは老朽化を迎えたけれど、来年度から新車を導入して8年計画で全車を入れ替える。中古に頼らず、計画的に新車を長く使う作戦だ。予算の制約で新車導入が難しい場合は、中古車に頼らざるを得ない。その場合は熊本電鉄のような大改造も検討する必要がある。
見方を変えれば、大手私鉄やJRは大型電車に切り替えているわけで、大型電車の中古車は増える。しかもJR東日本は新車の交換サイクルを早める方針だ(関連記事)。いっそ、大型中古電車の導入を視野に入れる必要もあるだろう。例えば、富士急行はJR東日本の通勤電車205系を導入している。これは富士急行が国鉄時代から直通列車を受け入れており、大型電車を導入する素地があったからだ。長野電鉄も同様の経緯から、東急電鉄の大型電車や小田急ロマンスカーの導入が可能になっている。
ただし、これから大型電車を投入しようとすると簡単にはいかない。車体が長くなると、特にカーブ区間で構造物に接触する恐れがある。ホームを削ったり、架線柱の位置を建て替えたりする必要もある。トンネルの拡幅は大工事で、地方鉄道の予算では難しい。それでも対応工事を済ませておけば、今後は中型中古電車の大改造より、大型中古電車を安価に導入できるかもしない。
長期的な視野に立てば、線路改造の検討の余地はありそうだ。しかし、「地方鉄道に長期的視野などない。割高でも中古中型電車をだましだまし使っていればいいんだよ」という考えだとしたら、それはとても悲しい現実である。
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