なぜ、山手線に観光列車が走らないのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
全国各地で観光列車が続々と誕生している。しかし運行路線は都会から離れたところばかり。もっと乗客を見込めそうな路線、例えば、山手線や大阪環状線、地下鉄で走らせたら成功するはずだ。しかし、こうした「一等地路線」に観光列車は適していない。その理由もレジャー産業の定石が教えてくれる。
レジャー産業は「裏通り」ビジネスである
大都市の通勤路線を一等地とするなら、地方の路線は三等地以下だ。線路も列車も余っている。しかし人は来ない。だから路線に付加価値を与えて集客し、単価を上げるというビジネスモデルが成り立つ。まさにレジャー産業の考え方である。
バブル景気のころに乱立した会員制ゴルフコースが「不動産付加価値ビジネス」の典型だ。駅から離れた二束三文の山林をデベロッパーが買い取り、造成して利益を乗せ、分割して会員権として売りさばく。例えば、土地を1億円で買い、3億円で整備する。そこに4億円の粗利を乗せると総額は8億円。これを100分割すると800万円になる。800万円の会員権が100人分できる。
ゴルフ会員権を買えば共同オーナーという気分になるわけだけど、会員権が売り出された時点で、既に800万円の不動産的価値はない。400万円分はデベロッパーの利益で消える。300万円分はいずれ償却される施設費。土地の所有価値は100万円にすぎず、会員権購入価格の8分の1である。バブル景気のころ、ゴルフ会員権はどこも値上がりして高値で取引されたけれど、それはすべて「共同オーナー気分」という付加価値でしかなかった。だからバブル崩壊とともに暴落したわけだ。
都会型レジャー産業の場合は、やはりバブル景気に流行した「ディスコ」や「デザイナーズカフェ・バー」などが当てはまる。遊食産業とも言われていた。当時、ビルのテナント料は3年契約だった。3年分の賃料と保証金が固定費。そこから店内装飾などの費用が積み増される。さらに3年間で見込む利益を乗せて、その金額を基に客単価を決定し、メニューが決まる。食材原価は少なく、味よりも雰囲気で勝負する店になる。こういう店は早く飽きられる。だから当時の流行型飲食店の多くは、ほぼ3年ごとに閉店して次の業態に転換していた。
店舗の付加価値などは3年間だけ維持できれば十分だ。客に飽きられる前に閉店し、新しい流行にチャレンジする。そうしたチャレンジができる賃貸物件は限られる。一等地ではなく裏通りだ。新業態は賃料の安い裏通りから発生する。古くは赤坂に対する銀座、バブルのころは渋谷に対する六本木が裏通りビジネスの発信地だった。だから六本木にはユニークな店が多かった。
しかし、裏通りも人気が出れば一等地になってしまう。その結果、バブル末期はどの街も一等地で、どこにでもあるようなチェーン店が並んだ。今や六本木は新業態がチャレンジできる街ではない。では、第2の六本木はどこか。当時はウォーターフロントが注目されていたことをご記憶だろうか。ディスコの「インクスティック芝浦ファクトリー」「ジュリアナ東京」に代表されるエリア。そのウォーターフロントもバブル景気が終息すると倉庫街に戻った。
バブル景気はレジャー産業にとって「安い土地・賃貸物件に対し、どれだけの付加価値を与えて客単価を上げていくか」というビジネスモデルを根付かせた。従って、集客が見込めるからといって、都心に18コースのゴルフクラブはできない。土地が高すぎて、付加価値を乗せると会員価格が高額になりすぎ買い手が付かない。オフィスビルや商業ビルのほうが付加価値の総額を高められるし、客の回転率も高く、利益を得やすい。
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