視聴率低迷に苦しむフジテレビが、「討論番組」に活路を見いだしている理由:スピン経済の歩き方(4/4 ページ)
視聴率低迷にあえぐフジテレビが、「討論」に活路を見いだしている。なかなか方向性が定まらない昼の帯番組『バイキング』はこの4月から、「生ホンネトークバラエティ」というコンセプトを掲げている。なぜこのタイミングで、フジは「討論番組」にチカラを入れているのか。
「対立」を煽る機能
先日、NHKで『そしてテレビは“戦争”を煽った 〜ロシアvsウクライナ 2年の記録〜』という番組を放映していた。
2014年5月、オデッサという地域で、ウクライナ民族主義者とロシア系住民が衝突し、建物内で火災が発生。ロシア系住民40人が亡くなる大惨事となった。そこで、ロシア側は「ウクライナ民族主義者が死体を辱めている」「妊婦が殺された」などの報道を積極的に行い、義憤にかられたロシアの若者を多く戦場へと送り込んだ。
しかし、現場にいた人たちによると、そのような事実はなく、ロシア国民にウクライナへの憎悪を煽るためのプロパガンダだったことが明らかになったのである。
この醜悪な現実が示すように、実はテレビがもっとも得意なのは、異なる主義主張をもつ者たちの「憎悪」や「対立」を煽ることにある。
フジテレビが活路を見出している「討論番組」というのは、見方を変えれば、「対立」をコンテンツ化していると言えなくもない。視聴率低迷の苦しさから、テレビのもつ「強み」に救いを見いだしたというわけだが、果たしてそれでいいのかという気もしている。
ロシアとウクライナの「対立」を煽ったオデッサの火災で、実は建物から逃げ出すロシア系住民をウクライナ人が助けていた。その瞬間を撮影していたジャーナリスト・セルゲイ・ジプロフ氏はこう述べている。
「どんなものでも表と裏があります。斧は人を殺すこともできるし、薪を作ることもできる。映像をどう使うのか、それは良心の問題なのです」
ジリ貧になったテレビ局は「映像」という斧をどう使うのか。フジテレビの「良心」に期待をしたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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