JR九州上場から、鉄道の「副業」が強い理由を考える:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
JR九州が東京証券取引所に上場を申請した。鉄道部門は赤字のまま。しかし副業のマンションやホテル、飲食店が好調だ。阪急電鉄や東急電鉄の成功以来、鉄道会社は副業とセットで成長してきた。しかしその形態は変化している。小林一三モデルではない、新たな相乗効果を模索する時代になった。
遊休地に頼らない「攻めの不動産業」
JRグループは今、遊休地の活用ではなく、土地を仕入れる不動産業に取り組んでいる。JR九州はその中で最も成功した事例と言えそうだ。
関連会社も併せて列挙すると、九州内で分譲マンションのMJRシリーズ、賃貸マンションのRJRシリーズ、中古マンションのJRENOX、シニア向けマンションSJRなど多数の物件を展開する。ホテルは14店舗あり、そのうち1つは東京・新宿にある。大規模な駅ビルは5駅で展開。九州内ではドラッグストア「ドラッグイレブン」を180店舗以上、コンビニエンスストア「am/pm(現在はファミリーマートに転換済み)」を175店舗を経営。レストラン事業として和食「うまや」が東京12店舗、九州9店舗、上海1店舗。中華「華都飯店」は大阪1店舗、九州3店舗。大病院、学童保育、ゴルフ場なども運営している。
ほかのJR各社も不動産事業に積極的だ。JR貨物は「フレシア」ブランドでマンション事業を手掛け、貨物駅遊休地を使ったショッピングセンター「アリオ北砂」、複合施設アイガーデンエア(飯田橋)などを展開。JR西日本は「ジェイグラン」というブランドでマンションを販売しているし、ホテルグランビアや、リハビリ特化型デイサービス「ポシブル」を全国に展開し、今後は鉄道事業エリア外も積極的に進出する構えだという。
JR四国は今年4月から「J.CREST」ブランドでマンション事業に参入した。JR東海も「セントラルガーデン」「ジェイタウン」ブランドで分譲マンション、「ドルチェ」ブランドで賃貸住宅を手掛ける。JR北海道も遊休地のマンション開発に着手した。JR東日本は「びゅうフォレスト」ブランドの分譲マンション、商業施設「Shapo(シャポー)」を手掛ける。
JR九州の上場にあたっては、熊本地震の影響が大きいと見る向きもあるだろう。しかし、不動産・商業など強力な副業収入があり、鉄道の損害は上場を妨げるほどではないと判断されたようだ。鉄道部門では、今まで赤字補てんのために運用してきた基金を取り崩し、九州新幹線鉄道施設の貸付料の一括払いと、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構からの借入金の全額一括返済にあてた。この処置については、本来、国から預かった運営基金であるため、国に返すべきという意見もあった。しかし国は「JR九州に帰属する」と決めたため、経営基盤の安定化のために使い切った。
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