地方鉄道存続問題、黒字化・公営化・貢献化ではない「第4の道」とは?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
赤字事業は廃止、赤字会社は解散。資本主義ではそれが正しい判断だ。しかし鉄道やバスなどの交通事業では簡単に割り切れない。沿線住民や観光客の足として地域に貢献するという「公共性」が問われる。ただし、存続のための選択肢はわずかしかない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
JR西日本は中国地方山間部の赤字線にメスを入れようとしている(関連記事)。JR東日本は只見線不通区間の再開に消極的だ(関連記事)。JR北海道は留萌本線末端区間を廃止予定で、日高本線の不通区間復旧費用を捻出できない。各地の第3セクター鉄道も経営は厳しく、地方自治体の財政を圧迫している。
地方ローカル線問題では「バスで代用できるのであれば鉄道はいらない、廃止してしまえ」という論調も根強い。JRや大手私鉄さえ、都市から離れた赤字線に鉄道放棄の考えが見受けられる。国も同様で、地域交通はバスまたは乗り合いタクシーを活用したい考えである。「鉄道が必要だ、残したい」という反論は、夢見がちな少数意見として片付けられてしまう。そうは言っても公共交通機関だから一方的に廃止もできず、説得と抵抗が続く。
前提として、鉄道は維持存続のコストが大きすぎる。旅客需要だけを考えると、大都市でこそ効力を発揮する大量交通手段だ。鉄道はエコだ、環境に優しいといっても、数人の乗客のために定員100人のディーゼルカーを運行するという状態は、環境的にも経済的にも地域に優しくない。沿線人口が少ない鉄道路線においては、効率論から考えればバスやタクシーの方が理にかなっている。
それを分かっていても「鉄道が必要だ」「私には必要ではなくなったけれど、鉄道をなくしたくない」という人がいる。現実的な論ではないけれど、それなりに力を持った人もいるから無視できない。しかし、ああ言えばこう言うという状況が続いていて時間の無駄だ。鉄道を廃止にするにしても、存続するにしても、さっさと決着をつけて地域一丸となって取り組まないと、地域の交通どころか、地域もろとも衰退してしまう。
私は鉄道好きだから、鉄道存続の観点で赤字ローカル線存続の手段を考えたい。実は赤字ローカル線問題は単純な話だ。存続の方法は3つに絞られる。「黒字化」「公営化」「貢献化」だ。ただし、それぞれに覚悟が必要だ。
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