地方鉄道存続問題、黒字化・公営化・貢献化ではない「第4の道」とは?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
赤字事業は廃止、赤字会社は解散。資本主義ではそれが正しい判断だ。しかし鉄道やバスなどの交通事業では簡単に割り切れない。沿線住民や観光客の足として地域に貢献するという「公共性」が問われる。ただし、存続のための選択肢はわずかしかない。
黒字化――地方鉄道の黒字化は可能か
地方鉄道が黒字化すれば、誰も文句はない。経費以上の営業収入があればいい。黒字化するにはどうしたらいいか。経費を下げて、乗客を増やす。ただし経費は下げようにも限界がある。安全のための費用、保線の費用は下げられない。
もっとも、運行本数の少ない地方鉄道において、都市の電鉄や地方幹線並みの安全基準は必要か、という議論は必要だろう。
道路で言えば、大都市の交差点には信号機が必須だけど、人通りの少ない横断歩道にまで信号機は必要か。鉄道の場合、新しい通信信号設備より、タブレットや手旗信号のほうが安く済むなら、安いほうを選択すべきだろう。
鉄道に限らない話として、本来、人件費を節約するための自動化のはずだ。人件費より高額な自動設備を導入していたら本末転倒である。失業率も上がる。機械は維持費がかかるし、そこにお金をつぎ込んでも、人の給料のように使ってくれないから、経済に貢献しない。
乗客を増やすとしても、もともと沿線人口が少ないから、かなり長期的な見通しが必要だ。マイカー利用者を無理やり鉄道利用に転換しても長続きはしないだろう。集落ごとに駅を作るなどの施策が必要だ。そして鉄道が必要な地域へと発展させていかねばならぬ。つまりは人口増のための施策が必要になる。駅付近に住宅や雇用先を整備する。これは鉄道会社ではなく行政の仕事とも言える。
しかし、阪急電鉄や東急電鉄のように、過去に鉄道と沿線開発の一体化で成功した事例はある。第3セクター鉄道は、不動産部門などへ事業範囲を広げるべきかもしれない。
乗客増の見込みが立たないなら、鉄道以外の営業収入も検討に値する。銚子電鉄は「ぬれ煎餅」が話題となり(関連記事)、その売り上げで鉄道の赤字を補い、設備を更新している。ここには「地域の交通を守りたい」という強い意志を感じる。
ただし、鉄道の赤字を補うための付帯事業だから、サービス単価は上がる。新ビジネスが成功しても、赤字部門を持たないライバルが現れたら勝てない。極論すると、銚子電鉄のぬれ煎餅が大ヒットして「ぬれ煎餅市場」と呼べる規模になったら、大手菓子メーカーが参入して、もっと安価なぬれ煎餅が出てくる。そうなると銚子電鉄のぬれ煎餅は菓子市場から駆逐される。元のお土産品の規模に戻る。副業は専業に駆逐されるのだ。
鉄道の場合、駅という拠点を活用したい。地方自治体から業務を受託してもいい。貨車を連結して駅を拠点にゴミを収集してもいいし、クリーニングや布団リフォームなど、輸送と関連した事業も開発できるかもしれない。まずは鉄道会社を黒字化する努力が必要だ。
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