地方鉄道存続問題、黒字化・公営化・貢献化ではない「第4の道」とは?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
赤字事業は廃止、赤字会社は解散。資本主義ではそれが正しい判断だ。しかし鉄道やバスなどの交通事業では簡単に割り切れない。沿線住民や観光客の足として地域に貢献するという「公共性」が問われる。ただし、存続のための選択肢はわずかしかない。
公営化――鉄道を必要とする地域が負担する
鉄道会社を黒字化できない。それでも地域にとって鉄道が必要だ。その場合は、地域が責任を持って運行しなくてはいけない。鉄道会社の赤字はすべて沿線自治体が引き受ける。現在、赤字の地方鉄道の多くは、自治体からの支援に頼っている。固定資産税の減免、赤字の補てんなどだ。もちろん、公費を供出するからには、おカネの使い道はしっかり監査しなくてはいけない。
国鉄の赤字ローカル線が問題化し、全国の赤字線の多くが廃止対象となった。このときに、自治体と地元民間企業などが出資して第3セクター方式の鉄道会社が発足した。地域で鉄道を支えるという意味では良い枠組みだったかもしれない。しかし、実際には責任の所在が曖昧(あいまい)になっただけで、その場しのぎだったようにも思われる。現在、廃止問題で揺れている第3セクターは、支えるべき出資者の足並みがそろっていないように見える事例もある。
例えば、幹線のA駅を起点とし、B駅を経由してC駅を終点とする第3セクター路線があるとする。それぞれ、A駅はA市、B駅はB町、C駅はC村にある。このとき、ABCの3つの自治体は、ローカル線に対する温度差が生まれる。C村にとってA市に至る鉄道は必要だ。しかしA市にとって、この鉄道に対する負担は納得しがたい。A市民のC村への移動需要がないし、C村の住民がA市の経済に貢献してくれるならまだしも、A駅で乗り換えて他の都市に行ってしまうなら、この鉄道はA市への貢献度が低い。
こうなると、第3セクターという枠組みも不安定になる。A市が負担を嫌がって廃止方針を打ち出すと、鉄道そのものの存続が危うくなる。もっとも鉄道を必要とするC村が鉄道を取得し、主導権を持ったほうがいい。しかし、鉄道の維持はカネがかかる。負担しきれない。その負担は必要か。そこで廃止派と維持派が揉めるわけだ。これは鉄道にしてもバス路線にしても同じだ。
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