出光が恐れているのは何か、昭和シェルが嫌っているのは誰か:スピン経済の歩き方(3/4 ページ)
出光興産と昭和シェル石油の合併が難しくなっている。国内ガソリン市場が縮小する中で出光にとってシェルとの統合は決して悪い話ではない。それなのに、なぜ出光の創業家は合併に反対しているのか。
両社が価値観を合わせるのは難しい
このような強い労組が存在し、経営陣と一部社員が長い対立を続けてきた昭和シェルと、いまだに創業者を「店主」と呼び、「家族は社員」とうたう出光が、ひとつの船に乗り合わせても、果たしてうまくいくのかという疑問は誰でも思う。創業家代理人の浜田弁護士も『東洋経済オンライン』のインタビューで、名指しさえしないものの、「労組」への不安をのぞかせている。
『企業経営を考えると必要なのは、創業時からの出光のように、労働組合がなくて自由闊達な意見交換ができ、即座にいろんな事態に対応していけることだ』(東洋経済オンライン7月11日)
もちろん、不安に感じているのは昭和シェル労組側も同じようで、統合話が出てから疑問や苦言を呈している。例えば、石油元売大手の労働時間は1日7時間半が基本だが、出光が8時間を掲げていることに反発。さらに、「対等統合」に対する不信感もあるのか、以下のような手紙を出光側に送っている。
『私たちは1985年のシェル石油と昭和石油の合併を経験しております。合併発表時、会社は両社長名で「社員の雇用と勤続年数を引き継ぐ」と表明しました。しかし合併から2年半後に突然「役職定年制」を導入し、55歳以上の管理職を退職に追いやりました(実質的な指名解雇です)。当時労働組合には「○○と□□(当時の会長と社長。ともに故人)を串刺しにしてやりたい」などの手紙や怒りの声が管理職から寄せられました。今回の「統合」にあたっては、間違ってもこのようなことが起きてはなりません』
とはいえ、出光も創業者が、「首切りなし」を理念として掲げ、戦後の不況のなかでそれをどうにか実現したことで名を成した企業だ。社員の雇用を守るというところでは、どうにか昭和シェル労組と調整をすることも不可能ではないかと思う。
ただ、残念ながら、いまのままでは、創業家と昭和シェル労組の歩み寄りはちと難しいかもしれない。
今月の雑誌『FACTA』で、ジャーナリストの大西康之氏が報じたところによると、創業家と経営陣の話し合いがもたれ決裂した翌日、出光美術館に、出光昭介氏の妻・千恵子氏とともにある人物が訪れたという。
百田尚樹氏だ。
そりゃあ『海賊と呼ばれた男』の作者なんだから当然、創業家とは仲がいい。一緒にいたって問題ないだろと思うかもしれないが、『FACTA』によると、創業家は百田氏を通じて世論を味方につけようとしているという。つまりは、「情報戦」を仕掛けようというのだ。
もしこれが事実ならば、出光と昭和シェルの「異文化融合」は先行きが暗い。
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