「自動運転」に王道はない:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
新しい社会に向けたクルマのあり方として「自動運転」への期待が高まっている。それは筆者も同様だ。しかしながら、そうした盛り上がりに水を差すようなある振る舞いが気になって仕方がない。
次はブレーキである。最初に電子制御が入ったのはアンチロックブレーキだ。タイヤと地面の間の摩擦力が最大になるのは滑り率10%程度であることは多くの研究によって明らかになっていた。つまり、滑り率10%以上のブレーキでは制動距離が伸びてしまう。そこで緊急時にどんなに強くブレーキを踏んでも滑り率を10%までに止める仕組みが作られた。これがアンチロックブレーキである。
その後、運転に不慣れなドライバーの場合、緊急時にブレーキの踏み込み力が足りないケースが問題になった。そこでブレーキペダルの踏み込み速度が速い場合に緊急ブレーキが必要だと判断して、ブレーキペダルの踏み込み力をアシストする仕組みが装備されるようになった。つまりブレーキの圧をクルマ側の判断で増やす仕組みである。これができたことで、新たな道が開けた。それが自動ブレーキである。
そうした下地があって、新機能が追加される。いわゆるぶつからないブレーキである。センサーが障害物を発見したときに、衝突を回避したり、被害を軽減するためにクルマが自動的にブレーキを掛ける仕組みである。これによってブレーキの自動化の基礎ができ上がった。
ハンドルはどうだろうか? 30年前には、まだ世の中にパワステ未装着のクルマは普通にあった。今ではそういうクルマを運転したことのある人も少ないだろうから説明しておくと、クルマが走っているときには、別にパワステがなくても、そんなに問題はない。
しかし、駐車などの低速でハンドルを切ろうと思うと、これがすさまじく重い。重いために切り遅れて枠線の中に入れられないということがよく起きる。これを解決したのがパワーステアリングだった。当初はエンジンの力で油圧を作り、その油圧でステアリングを回す力のサポートを行っていた。アシスト量をどうやって決めるかと言えば、ステアリングシャフトとステアリングギヤボックスの間にトーションバーという捻りばねを仕込んでこの捻り量に応じてアシスト量を決めていた。
しかし低燃費が求められる時代になると、この油圧ポンプはいろいろと都合が悪い。まず、常時稼働してエンジンの力を食ってしまうこと。オイルは事実上圧縮できないので圧を溜めておくことができないから、ポンプは稼働させっ放しにしないと、いざというときにステアリングのアシストができない。
その無駄を排除するためにできたのが電動パワステだ。電気モーターが動力なので、バッテリーに電気があればいつでも使える。モーターはレスポンスが良いので、必要になってから起動させれば十分に間に合う。さらに良いことに、オイル式のように、クルマを組み立てるとき、配管を繋いでオイルを注ぎ、エア抜きを行うという手間が必要ない。ただ部品をねじ止めして、電気接続用のカプラーを繋げばOK。燃費に効くだけでなく、組立コストまで下がったので急速に普及した。注目すべきはモーター駆動である点だ。つまり電動パワステならば、コンピューターが自動的に制御してハンドルを切ることが簡単にできるようになった。
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