自動車デザインの「カッコいい」より大事なもの:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)
自動車のデザインの話になると、すぐにカッコいい、カッコ悪いという点がフォーカスされる。商品としては大事なことだが、インダストリアルデザインにおいて重要なのはほかにある。
自動車のデザインの話をするとやはりカッコいい、カッコ悪いということになる。商品としての自動車にとってそれは大事な性能だ。魅力的なデザインが求められ、それが売れ行きを左右する。
しかしながら、純粋に美を追究するアートと、インダストリアルデザインは違う。インダストリアルデザインには機能や性能を満たし、かつ使い勝手を考慮した上で、魅力的なデザインを構築することが求められる。
さまざまな制約と相反するいくつもの機能に折り合いを付けつつ、製品として着地させてこそのインダストリアルデザインなのだ。今回は領域を大胆に絞り込んでこのデザインの話をしてみたいと思う。
初代レンジローバーのデザインは極めて機能優先となっていた。運転席の座面高さを上げ、併せてボンネットの両先端を意図的に持ち上げた意匠で、確実に車両先端を目視できるようにし、車両感覚をつかみやすくしている
カッコいいを切り離したデザイン
さて、デザインの話をするわけだが、「カッコいい」と言う言葉を最初に封印したい。本来デザインとは設計を内包したものであって、ただカッコいいことを考えるものではない。クルマに求められる設計要件や使い勝手は極めて多岐に及んでおり、リアルなクルマのデザイン工程における数多くの要素を全て盛り込もうと思うと、とてもではないがこの連載で手に負える範囲を超えてしまうし、それはユーザーである我々に必ずしも必要な知識ではないからだ。
今回は「人が運転して走らせるものとして、道具として、最も基本的で大事なことは何か?」というポイントに絞りたい。この大事なことが、実際のクルマでは優先されていないことが多い。空力(つまり燃費性能)やボディ剛性(これも軽量化につながるので間接的に燃費性能)、純粋な見た目(ショールームアピール性能)などにより高い優先度が与えられた結果だ。
「多少使いにくくてもカッコいい方が……」という選択は十分にあり得るし、それを否定するつもりもない。昔から伊達とはそういうものだ。ただ、本来の道具としての基本を譲ってまで、外見を優先したものをチョイスすると、毎日「なんだか使いにくい」と思いながら乗ることになりかねない。だから、基礎を無視するならそれは意思を持って行うべきで、一番基礎に何があるのかを知っておくのは、それを重視しない人にとっても重要なことなのだ。
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