日産ノート e-POWERの狙いはリーフの緊急救援:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
日産自動車が小型車「ノート」にe-POWERを搭載した新モデルを発売した。いわばガソリン発電機を積んだ電気自動車である。このクルマが登場した背景には、電気自動車「リーフ」の穴埋め的意味合いがあるという。
HRエンジンには多くのバリエーションがあるが、定格運転を前提にすれば、必要な要素は絞り込まれる。過渡特性を向上させるためのデュアルインジェクターもいらないし、低速からのピックアップに貢献するスーパーチャージャーもいらない。
理想を言うなら、もう一気筒減らして900ccの2気筒で良いはずだ。それに吸気を冷却して吸気充填効率と耐ノック性能を高める直噴インジェクターと、高膨張比を稼ぎ出す可変バルブタイミング、それにターボという組み合わせになるだろう。定格運転で回転数の上下がなければ、過給遅れというターボの最大の弱点が完全に回避できる。このエンジンを2000回転くらいで最大過給し、定格で回し続ければ、従来の想像を超えた超低燃費が実現できるはずだ。それしか回さないなら、シリンダーもピストンもクランクも、いやそれらに限らずあらゆる部分の強度を大幅に落とせる。
つまりよく言えば、ノート e-POWERにはまだまだシステム的に発展の余地がある。悪く言えば、発電専用には発電専用のエンジンの作り方があるはずだが、早期に安価に実現するために、既存の駆動用エンジンを改良した範囲で発電ユニットを作っているとも言える。
北米ではゼロエミッションビークル(ZEV)規制が一段と厳しくなり、電気自動車と燃料電池以外はZEVと認められなくなった。こうした流れの中で、現実的な利用メリットとバランスを取りながらクルマを開発していくことは年々難しくなっている。1つには北米のZEV規制が現実を無視した禁酒法的な理想主義であることも大きい。あまりに理想的すぎる規制は揺り戻しの可能性をはらんでいる。
日産は電気自動車の技術では世界の先端の一角を形成しているが、インフラや法規制が予想外の変化を見せる中で、その技術力をどう生かしていくのかが問われている。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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