トヨタ・ダイハツのスモールカー戦略が始まった:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
今年8月1日にトヨタ自動車がダイハツを完全子会社化してから、初の小型車の発表があった。世界ナンバーワン小型車メーカーへの道を進む上で、重要かつ失敗の許されない第一歩と言えるかもしれない。
オプションカタログがまたスゴい。ルーミーのカタログを見てみると、エアロパーツも含むお約束のマイルドヤンキー用のドレスアップパーツもあれば、もっとレーシーな方面に向けたTRDのアクセサリーやホイール、おしゃれカフェ指向のママに向けたオリエンタルなシートカバー、アウトドア方面の方に向けた車中泊用のカーテンやシェード、ルーフに吊すハンモック型の物入れ、ホビーユースをサポートする、ロードバイク/マウンテンバイク用の室内キャリア、あるいは釣り竿の室内キャリアも用意される。加えて、シニアの乗降をサポートするアシストグリップもある。小型車のニーズに対するローラー作戦である。
今月末に予定されている試乗会で実際に乗ってみるまで、クルマの出来についてどうこう言うことは差し控えたいが、この気遣いのすさまじさは欧州車には求めてもないものだ。全てが必要かと言われたら、そこまでしなくてもと思うものもあるが、一方で、新興国で生まれて初めてクルマを買う層にとって、ハンドリングだとか高速安定性だとかよりはるかに分かり易いアピールポイントを山盛りで備えているのもまた事実だ。ここまでくると、これはある種のクールジャパンなのかもしれない。
競争の中で勝ち残っていくために、差別化戦略は欠かせない。これまで自動車ジャーナリズムは、シートがテーブルになったり、フルフラットになったりすることをある意味小馬鹿にしてきた。そういう記事を山ほど見たが、それらは確かに他国のクルマでは見られない差別化ポイントであるのは間違いない。ただし、シートの本懐は人が座ることである。それを疎かにした多目的シートを擁護することはできない。そのバランスをどう取るのかについては技術と見識が問われることになるだろう。
トヨタ・ダイハツは、今後TNGAプラットフォームに続く第2弾として、小型車専用にDNGAの開発を予告している。トヨタが新型プリウスで成し遂げたような走りの質感向上をDNGAが成し遂げれば、クルマの評価が変わってくるだろう。そこにニーズのローラー作戦が加わったとき、再び『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の時代がやってくるのかもしれない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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