地方の公務員が送った米を、なぜローマ法王は食べたのか:スピン経済の歩き方(2/4 ページ)
ローマ法王に米を送った男をご存じだろうか。石川県羽咋市の職員だった高野誠鮮さんの仕事術が注目されている。人に頭を下げない、人に頼まない――といった方法で多くの人を動かしてきたという。どういうことかというと……。
ローマ法王に何をしたのか
そんなバカなと驚く方も多いだろう。
全世界で11億人の信者がいるカトリック教会の頂点にいるローマ法王に、日本の地方都市で働く公務員が送った米を食べてもらう。常識的に考えれば、「過疎の村を助けてください」などと必死に「お願い」をしたのではないか、と思うのではないだろうか。筆者も高野さんご本人にお会いするまで、ローマ法王庁に対して、そういうアプローチをしたのだと思っていた。
しかし、現実は違う。高野さんはローマ法王に「お願い」もしていなければ、これっぽっちも頭を下げていない。「むしろ、そのようなことをしていたら、ローマ法王は見向きもしてくれなかっただろう」とおっしゃっていた。
では、何をしたかというと、ローマ法王に対して、神子原地区の魅力を延々とアピールをした後、このように締めくくったのである。
「この神子原米を、あなたに召し上がっていただく可能性は1%もないでしょうが、そのあたりをぜひお答えいただけると幸いです」
そう、「お願い」や頭を下げることなく、ローマ法王に対して「質問」を投げかけたのだ。そんなの微妙なニュアンスの違いでしょと思うかもしれないが、この2つでは天と地ほどかけ離れている、と高野さんは言う。
『お願いは「私の事情」から発せられるものだからです。つまり、利己なんですね。相手の思いなどをまったく考慮していない。(中略)「私の事情」をぶつけるのではなく、相手に興味をもっていただける情報を精一杯盛り込み、興味があるかという「相手の事情」を尋ねたのです』(P128 第4章 相手のこころをうごかす より)
神子原米を食べてもらってブランドにしたいというのは高野さん側の事情である。そんな「私利私欲」をおくびにも出さず、なによりも「相手に喜んでもらう」ということを優先する。仕事における交渉では、このような「滅私」と「利他」の心が必要不可欠だという。
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