名言や社訓に洗脳される若き老害たち:常見陽平の「若き老害」論(2/2 ページ)
「若き老害」――。自分自身も若いのに、後輩や部下をマウンティングする社員を指す。特に顕著なのは「名言」や「武勇伝」などを押しつけるマウンティングである。その実例や背景について考えてみる。
ビジネス名言としてよく引用されてきた「電通鬼十則」
もちろん、名言を言いたくなる気持ちも理解しなくてはならない。名言は、明日への活力だ。滋養強壮剤を飲んだときのように、その瞬間、少しだけ元気になることができる。そして、その言葉を知っていることにより、少しだけ人の上に立つことができる。
日本のビジネスパーソンは名言が大好きだ。ビジネス雑誌の特集、ビジネス書などでも人気を呼んでいるものは、いわゆる「名言もの」である
過労自死問題で揺れる電通の「電通鬼十則」も、今では社畜精神丸出しの言葉と揶揄(やゆ)されるが、昔からビジネス名言としてよく引用されてきた。
私も新入社員時代はこの言葉を教育担当から渡されたし、ビジネス名言として電通以外にも広がりを見せている。
この言葉は1951年に4代目社長、吉田秀雄氏により作られたのだが、その3年後の1954年に当時の阪急電鉄の社長が吉田氏直筆のものをオフィスに掲示した。さらに、1976年には米General Electric(GE)のオフィスにも掲示されるようになった。影響力のある言葉であることが分かる。
この手の言葉は意味が独り歩きしていくのが、厄介だ。解釈は時代によって変わる。例えば、電通鬼十則でいうと、10番目に出てくる「摩擦を怖れるな」は別に、周囲との摩擦だけを言っているわけではない。自分の考えが変化することによる、心の葛藤を指していたりする。部下、後輩をマウンティングするために都合いいように解釈されがちなのだ。
もちろん、電通鬼十則を押し付けてくるのは迷惑な話だが、これほど語り継がれている名言ならまだマシである。最近できたばかりのベンチャー企業の社訓や、ビジョン、ミッションなどの受け売りでマウンティングされるのに比べれば……。
もっとも、彼らはこのような言葉をよりどころとしてしまうのだろう。若き老害は、かわいそうな存在なのだ。
常見陽平のプロフィール:
1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『僕たちはガンダムのジムである』『エヴァンゲリオン化する社会』(ともに日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)『普通に働け』(イースト・プレス)など。
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