自動運転の普及で山手線がなくなる日:新人記者(応援団長)が行く(2/2 ページ)
自動運転の実用化に向けた動きが加速している――。安倍首相は「2020年に東京で完全自動運転車(無人車)を走らせる」と宣言しているが、無人車の普及は社会に、経済にどのようなインパクトを与えるのだろうか。野村総合研究所の「自動運転車の普及による影響」などについて詳しい専門家、晝間敏慎(ひるまとしみつ)氏に話を聞いた。
山手線はなくなる?
――では、無人車が普及した場合の話をします。他にどんな仕事に影響がでますか?
晝間: 自動運転車の普及が進むにつれて事故もなくなるので、当然、自動車損保のニーズもなくなっていくでしょう。「レベル3」が普及する段階で売り上げなどに影響が出てくると思います。ただ、自動運転車と普通のクルマが混在する状態では、まだまだ事故も起こりますし、人が急に飛び出してきたら対応できません。
ニーズが減るのは間違いありませんが、こうした理由から損保会社が不要になるのは、かなり先かと。
また、無人車のシェアリングが普及することで、個人で所有するクルマが減っていきます。そのクルマの出荷台数が減るわけですから、当然、自動車メーカーの数も減っていくでしょう。
規模の大きい上位数社だけが残って、あとは買収されたり、倒産していくのではないでしょうか。それに伴って部品、材料メーカーなどの下請けにも影響が波及します。
――なるほど。他には?
晝間: 100年後くらい先の極端な話ですが、最終的に無人車が都市交通のインフラとして普及すれば、近距離移動の路線がなくなる可能性は十分と思います。例えば、無人タクシーが広告モデルなどを確立させることによって、鉄道の料金よりも安価に利用できるようになったとき、東海道線や新幹線などは残ると思いますが、山手線などのニーズはなくなりますよね。
――確かに、価格があまり変わらないのなら電車で通勤はしたくありません。しかし、電車で通勤、通学していた人たちが全員クルマで移動するようになったら大渋滞が起こるのでは?
晝間: どうでしょう。しかし、現在は道路の大部分が効率的に使われていません。無人車が普及した世界では、AIが最適なルートを導き出すので、道路を効率よく使えるようになることは確かです。
――渋滞が発生しないように、常に全体最適化をしてくれるのですね。また、リモートワークが今より進むことで、移動(出勤)する人数もだいぶ減っていくでしょうし。
晝間: また、そうなれば不動産屋の商売にも大きく影響することになるでしょう。現状の鉄道沿線の不動産価値は高いけれど、鉄道のニーズがなくなれば、その鉄道沿線の不動産価値は下がるので。
JRは鉄道事業が収益の中心ですが、東京急行電鉄(東急)などの私鉄は不動産関連事業の収益がかなり大きいので、JR以外の私鉄は厳しい状態になるかと。
――すごくインパクトのある話ですね。無人車の普及で鉄道会社は潰れるかもしれないということですか?
晝間: 私鉄はその可能性がありますね。都市近郊の私鉄沿線は、どちらかというと不動産価値を上げるために私鉄会社が路線を作っているわけです。不動産価値が崩壊すれば、私鉄は体力的に厳しい状態になるでしょう。
――まだ先の話ですが、影響は広範囲に及ぶということがよく分かりました。
晝間: もちろん、無人車が普及して、かなり安価で移動できるようになった場合の話ですけどね。それが100年後なのか、200年後なのかも分かりません。先ほども申し上げましたが、技術はクリアしていても「いつ社会がそれを受け入れられるようになるのか」が問題なので……。今がその過渡期にあるというわけです。
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