JR北海道は縮小よし、ただし線路をはがすな:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
JR北海道が自社で単独維持が困難な路線を発表した。総距離で1237キロメートル。単独維持可能な線区は1151キロメートル。それも沿線自治体の協力が前提だ。しかし本来、幹線鉄道の維持は国策でなされるべきだ。自治体に押し付けるべきではない。
JR北海道の議論がズレている理由
JR北海道について、豪雪地域だから赤字で当たり前、国鉄分割民営化の地域割りが原因、などの声が今さら上がっている。これが外部からの同情なら甘やかしだし、国、道、JR北海道の当事者が考えているとしたら、何を開き直っているんだという話である。
国鉄分割民営化の真意は赤字の精算だけではなく、当時の国鉄にまん延していた労組問題の精算という意味もあった。当時、過激だった千葉の労組対策として、千葉県はJR東日本に組み入れず、「JR千葉」を作る案も取りざたされたほどである。
労組問題は現在のJR各社もくすぶっている。しかし、かつての国鉄のように、私たち利用者に迷惑をかけるような過激な運動は減り、サービスは向上した。就職希望者の人気企業ランキングに入るほどJR各社の好感度も上がった。千葉県でもSLや観光列車が走っている。JR東日本も千葉駅をリニューアルするなど積極的だ。それは、民営化をきっかけに働く人々の意識が変わったからだ。内向きの闘争より、前向きに仕事をする人が増えた。これは経営者と労組幹部の才覚による。
JR九州の上場は、労使が鉄道事業の危機を自覚した上で、鉄道運行の信用を母体とした多角経営に挑戦した結果だ。北海道はどうか。人口200万人に届く札幌市も商機が多く、北海道ブランドを掲げて本州以南でビジネスを展開する「南下政策」にもチャンスはあった。JR九州の取り組みは参考になったはずだ。「赤字で当たり前」ではなかったし、「分割民営化の地域割り」が原因でもない。JR北海道に欠けていた要素は労使幹部の才覚である。
今からちょうど3年前の2013年11月、相次ぐ事故によって表面化したJR北海道の諸問題について、「第185回 国会国土交通委員会」で議論されている。労使問題について、自民党の平沢勝栄議員がJR北海道労組と過激派との関係を追求した。参考人としてJR北海道幹部だけではなく、警察庁長官官房審議官まで登壇させている。
JR北海道には労働組合が4つある。JR北海道労組の組合員=悪ではないだろう。少なくとも私はJR北海道を利用して嫌な思いをしたことはない。社員の皆さんは世間の風評に心を痛めているだろうけれど、利用者に対してはよく尽くしてくれている。問題は現場ではなく、もっと上の方にある。
JR北海道労組の上部組織はJR総連だ。その下部組織は全国にあり、北海道以外では影響が表面に出ない。JR発足から約30年、人材の若返りもあった。しかし、なぜかJR北海道だけが労使問題で悪しき習慣を残し続けているように見える。赤字問題、労使問題、まるで国鉄末期の再来ではないか。
第185回以降、国会の国土交通委員会の議事録でJR北海道問題は登場しない。第185回にしてもJR北海道のみを対象とした責任追及の議論であって、北海道の交通政策、国の物流政策に言及していない。なぜ国はここまで放置できるのか。国鉄問題の再来として認知し、同じ手法でJR北海道の解体まで追い込むつもりか。その先の展望を持っているか。
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