JR北海道は縮小よし、ただし線路をはがすな:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
JR北海道が自社で単独維持が困難な路線を発表した。総距離で1237キロメートル。単独維持可能な線区は1151キロメートル。それも沿線自治体の協力が前提だ。しかし本来、幹線鉄道の維持は国策でなされるべきだ。自治体に押し付けるべきではない。
全国的な物流政策の議論が必要
JR北海道の問題で注意すべきは、物流に関する議論が抜け落ちてしまうところである。これは当然のことで、そもそもJR北海道の正式名称は「北海道旅客鉄道株式会社」だからだ。JR北海道が赤字、利用者が少ない。これはすべて旅客輸送に偏った意見であり、これだけでは北海道の役割を語れない。
北海道は広大で、人口は少ない。離農者も多い。そんなことは今に始まったことではない。1981年に放送された名作ドラマ『北の国から』でも離農や酪農家の苦難を描いていた。統計を見ると、確かに農業人口は減っている。しかし、北海道の農産物の作付面積は微減または横ばい、10ヘクタール当たりの収穫量は増えている。一戸あたりの生産規模が大きくなっている。これは「人は減り、モノは増える」ということだ。JR北海道の客は減っている。しかしJR貨物の荷物は増える。
JR貨物 北海道支社の営業区域図。実は貨物列車も運行区間を縮小しており、北海道全域を網羅しているわけではない。JR北海道の単独維持困難線区は石北本線北旭川〜北見、根室本線滝川〜富良野、室蘭本線岩見沢〜沼ノ端が該当(出典:JR貨物)
北海道の幹線鉄道は貨物輸送でも重要、という認識は広まっている。JR貨物も売り上げを伸ばしたい。ところが、積極的に鉄道貨物輸送を売り込めない事情がある。確かに道内の鉄道輸送力にはゆとりがあるが、青函トンネルがボトルネックだ。北海道内で荷受けしても、これ以上、本州へ持ち込めない。その青函トンネルでは新幹線の高速化の話が再燃している。それも大切なことだけど、貨物列車にしわ寄せは来る。増発は難しい。
ならば、鉄道は内陸部の農産地から沿岸部の港まで運び、そこから船というルートがある。それも正しいけれど「目的地まで船便よりも高速」という鉄道の利点は薄まる。船に乗せるなら、むしろISOコンテナを運ぶトレーラーのほうが都合がいい。短距離運用だからトラック運転手不足の影響も小さい。
こうなると、北海道の鉄道輸送を生かすためには、やはり第2青函トンネルが必要になる。これは国の問題だ。それでも国が鉄道を選択しないというなら、農産地と港、港湾にしっかりと投資しなくてはいけない。
北海道の幹線鉄道は旅客輸送よりも貨物輸送を重視すべきであって、これはJR北海道だけの問題ではない。この議論はJR貨物も参加すべきだし、農業政策にもかかわる。このことからも、「当事者はJR北海道と地元関係者」などと言っていられない状況だと分かる。国交大臣は明らかに認識不足だし、国の交通の監督者として無責任だ。政府のやることなすこと批判しかしない野党は、なぜこんなにも大きなツッコミどころを放置しているのか。せっかく活躍できる舞台ではないか。
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