「ヌーハラ報道」に、目くじらを立てる理由:スピン経済の歩き方(2/5 ページ)
少し前、日本人がラーメンなどをすする際の音で外国人が不快な思いをするという「ヌードルハラスメント」(ヌーハラ)が注目を集めた。テレビや新聞などがこの騒動を報じたわけだが、筆者の窪田氏は「報じてはいけない」という。なぜなら……。
冷静に考えると「ヌーハラ騒動」は恐ろしい
日本で暮らしている外国人の方たちが「麺をすすることを強要されるのは人権侵害だ!」とか表明したわけではない。韓国のポシンタン(犬鍋)のように、海の向こうから「そういう野蛮なことはやめるべきだ」とかクレームがきたわけではない。ニューヨークタイムズなんかの海外メディアが、「ヌードルハラスメントで吐き気をもよおす外国人観光客が日本で増加中」とかいうニュースを報じたからでもない。素性もよく分からない自称『元自衛官』がSNS上でつぶやいた話を真に受け、「朝の顔」と呼ばれるようなテレビ司会者や芸能人の方たちが、怒りや不快感を示したのだ。
冷静に考えると、これは非常に恐ろしくないか。
ネット上では「戦争法廃止の国民連合政府応援隊」を名乗る方に対して、「反日左翼」「捏造(ねつぞう)」などと批判をする方たちもいるが、この方がどうのこうのと言いたいわけではない。ネット上で誰が主張しているのか分からないような「風説」を、情報番組で取り上げて「論争」にまで煽ってしまうマスコミ側のリテラシーの低さというか、軽率さに背筋が寒くなる、と申し上げているのだ。
今回のスキームが悪用されれば、現実には存在しない「被害」をでっちあげたり、特定の人々への「憎悪」を煽ることが容易にできてしまう。こんな恐ろしい社会はない。
いやいや、「風説」なんかじゃない。ヌーハラを扱った番組では外国人へアンケートをしたり、街頭インタビューをして、「麺をすする音が不快だ」と答えていたじゃないか、という方もいるだろうが、ああいうコメントはマスコミの世論調査でよく用いられるテクニックで、簡単につくりだせる。
例えば、某新聞なんかは世論調査で「安保関連法案によって、自由に戦争ができる国になるという懸念がでていますが、あなたは賛成ですか? 反対ですか?」なんて平気な顔をしてしれっと聞く。ネガティブな前提をつけ、二者択一を迫る。業界で言う「向ける質問」というやつだ。
『ユアタイム』でも、浅草・雷門の前にいた外国人観光客にわざわざイヤホンで、ラーメンをすする音を大音量で聞かせて「すごく不快な音がする。うるさいし」というコメントを引き出していた。典型的な「向けた取材」である。そもそも、麺をすする習慣のない国の人に、「麺をすする音をどう思いますか?」という質問をすれば、ほぼ間違いなくネガティブな回答が得られるはずだ。
想像してほしい。日本人に「米を素手で食べることについてどう思いますか?」と質問すれば、ほとんどの人が「汚い」とか「下品」と答えるだろう。そこには、米を素手で食べる国の人々を蔑む意図などまったくない。しかし、もし「汚い」「下品」という言葉だけが切り取られ、それらの国の人々に伝えられたら――。今回、情報番組で喧伝(けんでん)された「多くの外国人が麺をすする音を不快と思っている」というのも同じ構造であり、「ヌーハラ」なるものとはまったく別の次元の話なのだ。
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