“小さな高級車”幻想に挑むデミオとCX-3:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
マツダがデミオとCX-3の商品改良を行った。改良ポイントは大きく3つあるが、そもそもCX-3は単純にデミオのコンポーネンツを使っているというだけでなく、ボディも共用している。SUVでありながら室内高はデミオと変わらない。なぜそうしたクルマが作られたのだろうか?
しかしながら、Bセグメントのハッチバックでどんなにスタイルを磨き、内装を豪華にしたところで、本当に上質なクルマと人々が思うかと言えばそこは難しい。コンパクトハッチバックという車型そのものが持つ「安グルマ」という概念を壊すことは簡単ではないのだ。
例えば、デミオが徹底的に高級を目指し、高級な機構を採用して、アテンザと同じ価格になっても売れるのならば、それは小さな高級車だと言えるが、現実はどう逆立ちしてもそうはならない。小さな高級車とは自動車業界が昔から囚われている幻想であり、ヴァンデンプラ・プリンセスやルノー5バカラ、ランチア・イプシロンのようにそれに果敢に挑んだクルマはあったが、機構や構造まで含めて真に高級なものを生み出したことは歴史上ない。なぜなら小さな高級車が本当に高級な価格で売られたことはないからだ。だからこそ内装を豪華にするレベルでお茶を濁さざるを得ないのだ。
そこにこそCX-3の存在意義がある。CX-3は兄貴分であるCX-5のデザインを上手く引用している。何も知らない人が見たら、デミオよりもCX-5との関連性を連想するだろう。たとえ外皮一枚剥いた中身はまるっきりデミオであったとしてもだ。
つまり、CX-3はCX-5のイメージを上手く利用して、デミオがどんなに厚化粧しても覆せないパブリックイメージを塗り替えることに成功しているのである。だから、小さくて高級なものを欲しがる人にとってベストマッチな商品となっている。もちろん機構そのものはBセグメントカーのそれなので、真の高級という定義に当てはまるとは思わないが、少なくともパブリックイメージ上、困難なイメージ刷新を果たしたと言える。
身もふたもない言い方をすればイメージは実のところ見栄なのかもしれないが、自動車という商品はその見栄をぬぐい去ることがとても難しい商品である。仮に筆者が「国産車でコストパフォーマンスに最も優れ、実用的で、資産価値の償却が最も小さいクルマはプロボックスだ」と言ったとして、どれだけの人が「なるほど」とプロボックスを買うだろうか?
関連記事
- 「マツダ ロードスターRF」はロードスターなのか?
ロードスターRFの試乗を終えて戻ると、マツダの広報スタッフが「良いクルマでしょ?」と自信あり気に話しかけてきた。そんな新たなモデルを12月末に発売する。ロードスターとしてRFは異端と言えるだろう。 - 「常識が通じない」マツダの世界戦略
「笑顔になれるクルマを作ること」。これがマツダという会社が目指す姿だと従業員は口を揃えて言う。彼らは至って真剣だ。これは一体どういうことなのか……。 - マツダ・アクセラはマイナーチェンジじゃない
クルマは4年ごとにフルモデルチェンジ、その間の2年経過時にマイナーチェンジを行うのがお約束だったが、時代は変わりつつある。そんな中でマツダは「新車効果」を狙ってマイナーチェンジすることを止めるという。 - マツダの通信簿
先月末、マツダはサステナビリティレポートとアニュアルレポートを発表した。これはマツダ自身による過去1年間の通信簿とも言えるものだ。今回はそのレポートを基にマツダの現状を分析したい。 - マツダがロータリーにこだわり続ける理由 その歴史をひもとく
先日、マツダの三次テストコースが開業50周年を迎え、マツダファンたちによる感謝祭が現地で行われた。彼らを魅了するマツダ車の最大の特徴と言えば「ロータリーエンジン」だが、そこに秘められたエピソードは深い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.