「乗客がいない列車を減らす」は正解か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
青春18きっぷの利用開始日になったこともあって、中国山地のローカル線に乗ってきた。運行本数が少なく旅程作りに難儀し、乗ってみれば私一人という列車もあった。一方、快速列車で健闘する路線もある。不人気の列車の共通点は、遅さと運行時間帯だ。
快速運転で乗客を確保する津山線
津山線は津山と岡山を結ぶ。都市近郊路線として1時間に1本の便があり、いくつかは快速列車で所要時間は約1時間。快速「ことぶき」は2両編成のディーゼルカーだ。日曜日の午後、津山駅を発車する時点で座席が埋まり、4人掛けのボックス席で相席になるほど。岡山に近づくにつれて乗客が増えて、立ち客もいる。帰りの便は空いていたけれど、この日は日曜日だから、平日は通勤通学客で混むだろう。沿線風景を見ると、快速停車駅付近は新しい住宅も多い。
大都市近郊の大手私鉄に比べれば1時間に1本は少ない。しかし、大都市に住む人も、たいてい乗る列車は決まっている。つまり、通勤や通学にちょうどいい時間帯に列車が走れば乗客需要はある。芸備線も同様だ。広島から三次までは列車も、乗客も多い。
私は津山線で岡山に出た後、折り返して津山に戻った。数少ない姫新線に1分で乗り継ぎ、佐用から智頭急行で智頭へ、智頭から折り返して上郡へ達して目的を果たした。速度と運行本数の面で、津山線が最も便利だった。1時間に1本の路線同士でも、接続がきちんと機能すれば便利だ。乗り継ぎ計画を作る作業はパズルのようで楽しい。しかし、日常の足として使う場合にそれでいいのか。
智頭急行は国鉄が運行する予定だった。建設途中で国鉄赤字問題によって工事凍結。しかし陰陽連絡線として特急列車を走らせるため第三セクターとして継承、営業を開始した。鳥取県、岡山県、兵庫県ほか沿線自治体と地方銀行などが出資している
中国山地内と山陽側の都市近郊では、沿線人口も違う。道路環境も違う。両者の鉄道を取り巻く条件は違う。だから、現在の中国地方のダイヤは適材適所かもしれない。それでも、山陽側の路線と中国山地内の路線の格差を見ると、中国山地内の列車のダイヤは改善の余地がありそうに思った。日本海側から中国山地の都市に向かいたくても、「鉄道より高速バスで山陽側に出て折り返したほうが早い」という状況は、やっぱりおかしい。
「乗らないから減らす」は、悪循環の始まりだ。走っていなければ乗れない。無駄だと思われる列車を残し、どうすれば乗っていただけるか、これをまず考えなくてはいけない。ダイヤ改正を検討するたびに、地域と連携し、乗っていただく努力をしたい。そうしないと地域の人々が鉄道路線に無関心になる。だからといって、廃止するときに初めて地域と向き合っては遅い。
関連記事
- JR北海道は縮小よし、ただし線路をはがすな
JR北海道が自社で単独維持が困難な路線を発表した。総距離で1237キロメートル。単独維持可能な線区は1151キロメートル。それも沿線自治体の協力が前提だ。しかし本来、幹線鉄道の維持は国策でなされるべきだ。自治体に押し付けるべきではない。 - 夕張市がJR北海道に「鉄道廃止」を提案した理由
JR北海道が今秋に向けて「鉄道維持困難路線」を選定する中、夕張市が先手を打った。市内唯一の鉄道路線「石勝線夕張支線」の廃止提案だ。鉄道維持を唱える人々は「鉄道がない地域は衰退する」「バス転換しても容易に廃止される」という。夕張市の選択はその「常識」を疑うきっかけになる。 - JR九州が株式上場まで赤字路線を維持した理由
10月25日、JR九州は東証1部上場を果たした。同日前後、報道各社がJR北海道の路線廃止検討を報じている。このように対照的で皮肉な現実について、多くのメディアがさまざまな観点から論考するだろう。しかし過去を掘り返しても仕方ない。悔恨よりも未来だ。 - ローカル線足切り指標の「輸送密度」とは何か?
「輸送密度が○○人以下の赤字路線」など、赤字ローカル線廃止問題の報道で「輸送密度」という言葉が登場する。この輸送密度という数値の意味は何か。国鉄時代から取りざたされた輸送密度の数値を知ると、現在の赤字ローカル線廃止問題を理解しやすい。 - 地方鉄道存続問題、黒字化・公営化・貢献化ではない「第4の道」とは?
赤字事業は廃止、赤字会社は解散。資本主義ではそれが正しい判断だ。しかし鉄道やバスなどの交通事業では簡単に割り切れない。沿線住民や観光客の足として地域に貢献するという「公共性」が問われる。ただし、存続のための選択肢はわずかしかない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.