なぜ電子出版は軽視されるのか:成長しているのに電子<紙?(1/4 ページ)
不調が続く出版業界の中で、唯一成長している電子出版市場。出版社が電子に注力する価値はありそうに見えるが、実際は業界内の電子への期待はまだまだ薄い。「売れない紙を大事にして、売れ始めている電子を軽視する」のはどうしてなのだろうか。
出版業界の苦境が続いている。出版科学研究所によると、2015年の紙の出版物販売額は前年比5.3%減の1兆5220億円。書籍は健闘しているが、下げ止まらないのが雑誌だ。16年はさらにコミックも不調で、15年の数字を下回ると見られている。
長引く出版不況により業界は揺れている。3月にはコミックに強いことで知られた出版取次中堅の太洋社が自己破産。専門誌で知られてきた中小出版社の倒産も続いた。講談社による一迅社子会社化も大きなニュースとなった。ピーク時には25万部を超えていた人気雑誌「AneCan」(小学館)も、部数減により休刊を決めた。
書店もあおりを受けている。太洋社倒産の影響で芳林堂書店が自己破産。11月には岩波ブックセンターを経営する信山社が破産手続きを決定した。
帝国データバンクによると、出版関連業者の損益動向はほぼ半々だが、売上高規模が大きい企業は増益の占める割合が大きくなり、小さい企業は減益の占める割合が増えているそうだ。また、矢野経済研究所の分析では「中堅出版社の収益力低下が顕著」だという。今後、子会社化や買収などの業界再編は避けられないだろう。
では、出版業界は暗いニュースばかりなのか……というと、そうではない。電子出版市場は成長しているのだ。
インプレス総合研究所によると、2015年の電子出版市場は1826億円(前年比29%増)と大きく成長している。けん引しているのは8割以上を占める電子コミックだが、雑誌やビジネス書や小説などのコミック以外の書籍もプラス成長だ。16年は2280億円を予想している。
とはいえ、電子書籍市場の伸びだけでは紙の落ち込みを補い切れてはいない。だが電子書籍は20年には約3500億円にまで成長するという予想もある。印刷代などのコストが掛からないため、利益率は紙よりも高い強みもある。こうした点からも、出版社が電子に注力する価値はありそうに見える。
しかし実際は、業界内の電子への期待は非常に薄い。クリエイターや編集者が「自分の本は電子書店ではなくリアル書店で買ってほしい」「作品の人気は、紙の売り上げで判断する」とSNSで呼びかけるなど、「紙偏重・電子軽視」とも思える光景を見ることも少なくない。
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