C-HRで到達 トヨタの「もっといいクルマ」:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
トヨタは大きく変わりつつある。2015年に打ち出した「TNGA(Toyota New Global Architecture)」の第1弾プリウス、そして今回、第2弾のC-HRに乗って、トヨタが掲げる「もっといいクルマづくり」が推進されていることを体感したのだ。
もっといいクルマづくりはできているのか?
自動車メーカーが自動車というプロダクトを作る事業を営んでいる以上、製品が良くなければ話にならないし、大多数の消費者としては、それこそが最も強い、あるいは唯一のトヨタとの関係性である。
TNGAの導入以来、トヨタのクルマは明らかに良くなっている。それはどういうことか? 先代の30型プリウス、現行の50型プリウス、そして、今回の10型C-HR(ハイブリッド)の3台を俯瞰(ふかん)しながら解説していこう。
30プリウスとは何だったのか? それはすべてのパラメーターを燃費とコストに割り振ったバランスの悪いクルマだった。重要なポイントは2つある。速度マネジメントとハンドリングである。30プリウスは加速でも減速でもドライバーの言うことを聞かない。前走車との距離が離れ始めてアクセルを踏み足したとき、クルマは一向に反応しない。だから踏み足す。まだ反応しない。さらに踏み足す。まだ反応しない。そしてドライバーは諦めて床までアクセルを踏む。モーターとエンジンを合わせるとかなり快速の部類に入るプリウスは前走車に向かって突進する。
あるいは、前走車に追いついたケースでアクセルを放す。エンジンブレーキを期待しても限りなく減速しない。コースティングといって、そのまま滑空しようとする。厳密に言えばこの時の減速Gはゼロではないので、それを持って「コースティングではない」と言う人がいるが、アクセルの全閉にドライバーが期待する減速を行わないという意味で、これはコースティングと見なして良いと筆者は思っている。加速時も減速時も前走車を煽るような形に自然となってしまう。テストパターンの決まった届け出燃費は良くなるだろうが、こんな運転パターンを強いれば、実走燃費にもマイナスになるはずである。
実は裏モードとも言える方法があって、ドライブモードでパワーモードを選択し、さらに変速モードをブレーキの「B」にすれば、ごく普通のクルマのように加速と減速がマネジメントできる。しかし、そうするとプリウスを選んだ意味のある燃費ではなくなる。それはつまり、燃費のチャンピオンであるために、ドライバーの言うことを無視するインタフェースを構築したことになる。ドライバーの自由にギブスをはめて燃費を叩き出していたのである。
ハンドリングでは、切り返しが問題だった。緩やかな右コーナーから左に切り返すような場面で舵が抜ける。それはハンドルの操作によってクルマが作る挙動の連続性がぶっつりと途切れるということだ。
その原因はリヤサスペンションにトーションビーム・アクセル(TBA)を採用し、しかもそれをうまくセッティングできなかったからだ。TBAは車両の等幅に近いH型のアームを上2点(車両上では前方)でボディにマウントし、下2点(車両上では後方)に左右輪を組み付けたサスペンションで、タイヤからの横力はアームをテコとして、上2点の付け根に集中する。しかし、ここは騒音や振動の面から大容量のゴムブッシュが不可欠だ。容量を減らすと音と振動がひどくなり、増やすと横力によってリヤタイヤがグラグラと動いてしまう。右に力がかかってゴムブッシュが圧縮された状態から左に着力方向が変われば、ゴムがぼよんと戻ってリヤタイヤが勝手に舵を切る。このとき舵が効かなくなる。
TNGA第1弾として登場した50型プリウスに乗ってみて、驚いた。まず速度マネジメントがだいぶまともになった。ギブスが取れてアクセルで加速と減速ができるようになった。それは30を基準とすると長足の進歩であり、まともなクルマとしての更正と言えるものだった。ただし、ドライバーは常に予見をしながら運転する。「今必要な加速にはアクセルをこのくらい踏み足そう」。そして、その結果が予測と違ったとき、さらに補正をかけて望む加速を手に入れる。この予測と結果の関係がキリリとはっきりしていたかと言えば、そこまでのものではなかった。毎回補正を組み込まなくてはならない。実用のレベルで不足かと言われれば、不足こそなかったものの、万全の信頼を持ってクルマとコミュニケートできるまでには至っていなかったのである。
一方、リヤサスペンションはダブルウィッシュボーンに改められ、原因そのものが排除されたこともあって、舵抜けは姿を消した。しかしこちらの方も、予測と結果がドンピシャと言うまでには至っていなかった。それでも、ドライバーの操作は第二プライオリティと言わんばかりの30型とは雲泥の差があったのは確かだ。
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