トランプがゴリ押ししてもアメ車は売れない:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
「アメ車はダメだ」という声が日本人の多数派を占めるが、アメ車がダメだという点について筆者は部分的にしか同意できない。評価すべき部分もある。ただ一方で、日本などで売れない理由も明白だ。
前回、トランプ時代の貿易摩擦についての記事を書いた。しかしながら、アメリカ車の現状そのものについて日本人があまり理解していない点も多々ある。今回はそれについて述べておきたい。
まずはざっくり前回の原稿を振り返ってみよう。現在、米国は自動車の輸入超過で文句なしの世界トップを驀進(ばくしん)中だ。輸入超過は340万台でワースト2のイギリスの3倍。そして米国が輸入超過になっている原因は日本、韓国、ドイツが主要因になっている。
ただし、米国が現在も自動車大国でいられる要因も、日本のメーカーが大挙して米国で現地生産をしているからであって、これがなければ米国の自動車産業の地盤沈下はもっとひどいことになっている。なぜなら米国の小型車を支えているのはこれらの日本のメーカーであり、それは同時に米国の輸出産品でもある。この世から日本のメーカーがなくなったとしたら、米国の輸入超過は減るだろうが、同時に米国の輸出も減る。そうなれば自動車産業における米国の経済的なプレゼンスが著しく低下するのだ。
走るものとして、アメ車はダメなのか?
さて、そうなったのは「アメ車がダメだからだ」とするのが日本人の圧倒的多数派なのだろうと思う。しかし、アメ車がダメだという点について筆者は部分的にしか同意できない。評価すべき部分もあったのだ。
クルマの性能の指標はとても多岐に渡っており、区別をつけながら話を進めていかないとさまざまな誤解を招く。最も代表的な2つを挙げれば、走行性能と生産品質である。走行性能と言っても、別にニュルブルクリンクを何分で走るかという非現実的な速度域の話ではなく、日常速度で走る運動体として、ドライバーの操作に対して違和感なく気持ち良く動くことだ。こういう性能と故障率は別の問題だ。
自動車世界の帝王であったGMが満を持して日本に送り込んだサターン。ディーラー網の整備なども、相当頑張り、テレビCMも大量に流したが、1997年の進出からたった4年後の2001年に撤退した(出典:Wikipedia)
1990年代中盤、米国は小型車生産に力を入れようとしたことがあった。GMのサターンやクライスラーのネオンといったクルマは当時「日本車キラー」と呼ばれ、メディアもこぞって日本車の危機を書き立てた。「本気になった米国は怖い」と言うのである。しかしながら、結果を見れば、どちらのブランドも日本ではまったく成功することなく敗退した。今日それを振り返って「アメ車は技術レベルで日本車に歯が立たなかった」と、ざっくりとまとめられているが、本当にそうだろうか?
筆者は残念ながらサターンには乗ったことがないが、ネオンには乗ったことがある。あれはこと走るものとしてとらえる限り、当時の多くの日本車より優れていた。穏やかだがしっかりしていて、良い意味で違和感がないクルマだった。
野球で言えば、ファインプレーをファインプレーと見せることのない技術。難しい打球を何でもなくさばいてアウトカウントを稼ぐことができていた。しかし、帽子を飛ばして横っ飛びの逆シングルでキャッチするようなプレーを観客は喜ぶ。打者のクセと投手の配球を読んで守備位置が変えられるプレイヤーならば、打球の方向はある程度予想できる。それができていればリスクの高い派手な守備をする必要がないのだが、そのプレーの派手さに観客は魅了されるのである。
そういう期待に対してネオンはあまりにも地味だった。だからネオンを高評価するのは玄人(くろうと)ばかりだったし、そのすごさはなかなか伝えることが難しかった。日本人の評価では納得できない人々に向けて書き添えておけば、当時の欧州の自動車雑誌もネオンの実力には高い評価を与えていたのだ。
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