ヴィッツとトヨタの未来:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
かつてトヨタのハイブリッドと言えばプリウスだったが、今やさまざまな車種バリエーションが展開、ついにはヴィッツにも採用された。その狙いや特徴などを考えたい。
トヨタがBセグメントの主力モデルである「ヴィッツ」のマイナーチェンジを行った。ポイントはハイブリッドモデルを追加したことだ。
トヨタのハイブリッドと言えば、プリウスという時代が長かったが、2010年前後から車種が増え始め、ミニバンやFRセダンまで、今や23車種を数え、さまざまな車種バリエーションが展開されるようになった。
しかし、ハイブリッドはエンジンとモーター両方が必要な高価なシステムなので、どうしても安価なクルマのハイブリッド化は難しい。それでもマーケットのハイブリッド人気に応えるために、2011年にBセグメントのアクアを投入した。アクアとプリウスの商品的なバランスは難しい。ボディが小型軽量なアクアを本気で作れば、燃費でプリウスを撃墜してしまう。そこで発表燃費でわずかだけプリウスより高い値にするという究極のバランス取りを行った。それはプリウスのエースとしての看板を傷つけないためである。その微妙なニュアンスを守りながら小型車での車種拡大は難しく、その結果、Bセグメントの主力であるヴィッツにはなかなかハイブリッドユニットが積まれなかったのである。
しかし、今やこのクラスでも、ハイブリッド、ディーゼルなど、ガソリンに対して二酸化炭素(CO2)排出量で優位にあるシステムの普及が進み、比率は6:4ほどになっている。まもなく5割に達するだろう。そうした非ガソリンエンジン派の拡大に合わせて、トヨタもハイブリッド政策を見直し始めた。恐らく今後はほぼ全車にハイブリッドモデルがラインアップされる方向へ進むだろう。ヴィッツのハイブリッド化は、良くも悪くもハイブリッドの一般化を象徴することになる。
トヨタの新小型車戦略の中で
さて、トヨタの小型車戦略を、商品企画から生産まで一貫して請け負うのが、2016年4月の7分社化で生まれたトヨタコンパクトカーカンパニーだ。しかし、話が簡単ではないのは、2017年1月にダイハツを主力とした新興国小型車カンパニーができたことだ。小型車部門は、先進国向けと新興国向けに複線化されたことになる。
これによって、トヨタコンパクトカーカンパニーは、日本と欧州のモデルを中心に受け持つことになった。ヴィッツは欧州では「ヤリス」という名で販売されている。同カンパニーにとって、このクラスのリーダーであるフォルクスワーゲン・ポロを打倒することが目的だと言えるだろう。
ヴィッツは1999年に初代モデルが発売され、2005年に2代目、現行モデルは2010年にデビューした。発売からの年数を見れば、本来フルモデルチェンジを受けて然るべきタイミングだが、現在トヨタはTNGA(Toyota New Global Architecture)戦略を推進中だ。TNGAは単にクルマの構造だけでなく、トヨタの体質強化を目的としたプログラムであり、工場の改革や部品調達まで含まれるオールトヨタの脱皮である。
トヨタは2020年までに世界生産の半分をTNGAに対応させると発表済みだが、そのためには世界中の工場を順次、設備改修していかなくてはならない。可能な限り早く進めても、おのずと限界はある。欧州向けにフランス工場でも生産されるヴィッツは、設備改修のタイミング待ちで、断腸の思いでフルモデルチェンジを見送り、今回はマイナーチェンジにとどまったと考えられる。
ただし、販売台数が多いヴィッツのマイナーチェンジは、適当にお茶を濁すような形では成立しない。そこで大がかりなテコ入れとして、ハイブリッドを搭載する運びになったと考えるとすべての辻褄(つじつま)が合う。
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