マツダ独自のデザインを見せるための塗装:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
クルマに塗装をする最大の理由は錆びを防ぐためだ。けれども、塗装は商品のデザイン価値を高める効果もある。そのことについて常識を超えた取り組みを見せているのがマツダだ。
クルマに塗装をする理由は単純だ。鉄は錆びる。酸素と化合して酸化鉄や水酸化鉄になってしまう。錆びを防ぐためには表面に皮膜を作って、酸素と触れないようにするしかない。だから塗装する。
しかし、クルマが商品である以上、ただ錆びないための皮膜ではもったいない。塗装によって商品の魅力を引き上げることができるからだ。
広島の色
最近その塗装の技術がまた進歩している。クルマの形=デザインをより引き立てる技術として、進化しているのだ。マツダはデザインを進化させる塗装としてマシーングレーとソウルレッドクリスタルメタリックを開発した。
技術というのは解決すべき問題があるときに進歩する。問題がなければ改善の必要がない。マツダにはどういう問題があったのだろうか?
マツダのイメージカラーは赤だ。しかし赤という色は誰でも気軽にチョイスできる色ではない。「赤は派手過ぎてちょっと……」という人は必ず一定数いる。
そういうコンサバな人が気軽に選べる第2のイメージカラーをマツダは持ちたかった。広島らしい色とは何か? 生真面目なマツダはそこから考えた。過去さまざまな取材をしてきた筆者は想像できるが、マツダの人々にとって、広島と言えば鉄である。元々は中世に砂鉄を採集するために山を崩し、太田川の上流の山間部で土を流して砂鉄を採集していた。長年にわたる砂鉄取りの営みによって大量の土砂が堆積したデルタ地帯に形成されたのが現在の広島だ。
少し広域で見れば、中国山地はたたら製鉄の先進地であり、これらの地域で最上級とされる玉鋼が生産されることから、備前、備中、出雲、伯耆などの国は日本刀の産地であった。天下五剣と呼ばれる五振りの刀のうち、「童子切安綱」と「数珠丸恒次」の二振りは共にこの地域で作刀されており、天下五剣のほかにも備前長船には国宝の「大般若長光」など、名刀と呼ばれるものが多い。
そうした日本刀の名物の話が安芸(広島)の話なのかと言われれば、そこは少し微妙なところがあるが、安芸も鉄と縁が深い。安芸の産品はもっと庶民的なもので、かつては安芸十りと呼ばれた鉄製品があった。末尾に「り」が付く10の鉄製品である。
安芸十り
- ヤスリ
- イカリ
- ハリ
- クサリ
- キリ
- モリ
- ツリバリ
- カミソリ
- ノコギリ
- ヤリ
こうした製鉄や金属加工の技術が基になって、呉に海軍工廠が作られた。マツダはその鉄を生業とした技術グループの末裔だと自らを定義したのである。
さて、そのマツダが鉄をイメージして色を考えたときに、さすがにヤスリやイカリをイメージするわけにはいかない。だから日本刀の色を目標にした。鉄独特の色を再現する塗装を目指したのである。
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