日産の国内戦略を刺激したノートe-POWER:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
ここしばらく国内でほとんどリリースせず、存在感が希薄化していた日産だが、昨年にノートのハイブリッド車、e-POWERでヒットを飛ばした。販売店にとっても救世主となったこのクルマの実力に迫った。
思わぬ評価が動かした商品企画
しかし、電気自動車を売ってみて、初めて分かったことが日産にはあった。従来のガソリン車ユーザーにいきなり電気自動車に乗ってくれと言っても、顧客はそのメリット・デメリットが明確に比較できず、結果尻込みしてしまう。それはつまり、間に一段ステップが必要だということを意味する。
もう1つ、日産にとっても意外だった評価がある。それは実際に購入したユーザーからの「モーター駆動の気持ち良さ」への絶賛だ。ガソリンエンジンは低速域の運転が苦手である。不慣れな人がマニュアルトランスミッションでエンストしてしまうのは、低速回転ではトルクが細いためだ。ところがモーターは低速が得意である。むしろモーターの全能力を発揮したら、発進しようとしてアクセルを踏んだ瞬間に、モーターの有り余るトルクはタイヤの能力限界を超えてしまう。なので、モーター駆動の場合、車両の加速時にタイヤの状態をモニターしながら緻密にトルクを制御しなくてはならない。
しかしこれは裏返せば、人が気持ち良く感じる加速感を制御によって作り出せることを意味し、加速の演出が思うままにできることになる。足りなければどうしようもないが、余っているなら好きなようにデザインできるからだ。さらに制御レスポンスが桁外れだ。3気筒ガソリンエンジンの1000回転時のトルク制御の理論的最小制御限界は約25分の1秒となる。日産はモーターを1万分の1秒で制御できると言う。さすがにそこまで高精度である意味はないが、個人差はあれど、200分の1秒程度までは人の感覚に何らかの差を感じさせるはずだ。
併せて、アクセルペダルを放したとき、即回生ブレーキを稼働させることができる。
ただし、このブレーキもモーターを制御しなければ強烈で、とても実用的とは言えない、日産は実験を繰り返しながら0.15Gという減速加速度を決め、その過渡特性を作り込んだ。そうして加速も減速も人が気持ち良い制御ができるようになったのである。
つまり、電気自動車未満のクルマで、かつ加減速制御の気持ち良いクルマを作れば、マーケットが反応する可能性があり、それはまた塩漬けのリーフに対する支援策にもなる。そうしてノートe-POWERのプロジェクトはスタートした。
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