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国鉄を知らない人へ贈る「分割民営化」の話杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/7 ページ)

4月1日にJRグループは発足して30周年を迎えた。すなわち、国鉄分割民営化から30年だ。この節目に分割民営化の功罪を問う論調も多い。しかし、どの議論も国鉄の存在を承前として始まっている。今回はあえて若い人向けに国鉄と分割民営化をまとめてみた。

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なぜ国鉄を破産、または会社更生手続きとしなかったか

 国鉄問題は長期債務と職員のモラル低下の問題として国民に認知された。職員のモラル低下は国鉄の労務政策の失敗や、それに反発した労働組合運動の激化などによる。今回は長期債務の話に絞るため、別の機会としよう。

 政府は事態を決着させるため、長い議論の末に国鉄の分割民営化を決定する。国鉄の旅客部門は地域ごとに6社に分割。鉄道施設も旅客会社に譲渡した。貨物部門は旅客会社に線路使用料を支払う形になった。国鉄の長期債務と、新会社で雇用されない職員は、国鉄清算事業団が引き取った。

 国鉄清算事業団は国鉄遊休地の処分で債務を返済し、職員の再就職先を斡旋する業務が主だった。長期債務の総額は約37兆円。このうち、JR東日本、JR東海、JR西日本が合計約6兆円を引き取り、新幹線鉄道保有機構も約5兆5000億円を引き取った。残りの約25兆5000億円を国鉄清算事業団が引き受けた。

 ここで、企業経営に詳しい人は「国鉄が破たんしたにもかかわらず、なぜ債務が残っているか」と疑問に思うかもしれない。大企業が破たんした場合、破産と会社更生と民事再生の3つの手続きがある。どれも債務の返済は停止され、のちに減額や放棄が行われるからだ。

 破産の場合は債務を解消し、残った財産が債権者に分配されて会社は解散。会社更生の場合は裁判所が選任した管財人が、財産と経営権を掌握した上で、新たな経営計画や債務返済計画を策定する。債権者に減額または一部放棄を求める。経営陣は全員辞職し、株式は100%減資となるため、株主も出資金を取り返せない。民事再生の場合は、債権者の合意の下で新たな返済計画を作って企業を存続させる。債権者が合意すれば、経営陣が交代しない場合もある。

 しかし、国鉄については破産も会社更生も民事再生もできなかった。理由は、債権者が政府だったからだ。国鉄の長期債務は財政投融資と政府保証鉄道債券だ。大蔵省は、これらの減額も一部放棄も認めなかった。

 当時の財政投融資は郵便貯金、簡易保険、国民年金と厚生年金基金を運用していた。民間銀行が決断できないような、長期で大規模な投資先のために作られた制度だ。法律で、安定した投資先に運用が限定されていた。国債の買い入れ、住宅金融公庫、収入が見込める独立行政法人などだ。国鉄もその1つ。その債権を放棄すれば、郵便貯金の金利、簡易保険の支払いはできなくなり、年金制度は破たんする。

 政府保証鉄道債券は政府の信用に基づいて運用されていた。これが紙くずになってしまったら、政府の信用は失う。今後、国債をはじめとする政府の債権は運用できなくなる。外国が持つ日本国債が暴落すれば国際問題になる。円も暴落し、日本経済が破たんするかもしれない。

 もし国鉄が政府系金融ではなく、民間の銀行から借りていれば、金利はもっと下がり、債務はもっと小さかったかもしれない。しかし、国鉄が要求する1兆円単位の資金は民間では支えられなかった。民間の資金を調達する上でも、国鉄の民営化は必要といえた。

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