国鉄を知らない人へ贈る「分割民営化」の話:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/7 ページ)
4月1日にJRグループは発足して30周年を迎えた。すなわち、国鉄分割民営化から30年だ。この節目に分割民営化の功罪を問う論調も多い。しかし、どの議論も国鉄の存在を承前として始まっている。今回はあえて若い人向けに国鉄と分割民営化をまとめてみた。
国鉄清算事業団は逆に債務を増やした
国鉄が分割民営化されてJRになった。これは正確ではない。長期債務の負担が大幅に減ったため、会社更生にも似ている。しかし、JR各社は政府が100%株主となった新しい会社で、国鉄を承継したわけではない。そして債務は消えていない。国鉄の債務と人材を承継した組織は国鉄清算事業団だ。
国鉄清算事業団が引き継いだ遊休地の公示価格は約7兆円だった。すべて処分しても約25兆5000億円には足りない。元々、国鉄清算事業団が債務を解消した残りは国の一般会計で処理すると決められていた。その前に、できるだけ債務を減らす役割が国鉄清算事業団だった。
ところで、国鉄遊休地の売却には一瞬だけ追い風が吹きかけた。バブル景気の到来だ。地価高騰時代を迎えた。汐留貨物駅跡など一等地の価格は2倍の価値があると言われた。ここですべての遊休地を処分すれば、長期債務の半分くらいは減らせたかもしれない。しかし、この時期に土地売却はできなかった。政府が国有地などの土地売却を停止したからだ。理由は過剰な地価高騰を招く恐れがあるからだ。
政府は新会社のJRに対しては介入しなかった。しかし、国鉄の債務を継承した国鉄清算事業団には介入を続けたと言える。政府の処置は国鉄の債務返済の障害となった。しかし、もし土地売却を認めたら、バブル期の地価高騰が進み、バブル崩壊後の混乱はもっと大きかったかもしれない。政府の判断は一方的に攻められるべきではないだろう。
国鉄遊休地の売却は、バブル崩壊後から再開された。しかし景気が悪く、土地の買い手がつかない。その多くは自治体が再開発用地として引き取った。当初は10年間で終了するはずの土地売却処理は終わらず、長期債務はさらに金利を増やした。約25兆5000億円の債務は減らすどころか、逆に約28兆円に増えてしまった。
国鉄清算事業団は解散し、業務は日本鉄道建設公団が引き継いだ。現在は独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構となっている。処理が進まなかった国鉄遊休地の処分は、30年後の今年にようやく終わる。旧梅田貨物駅跡地のうめきた再開発用地と、仙台市長町の操車場跡地だ。
残された長期債務の約28兆円は、予定どおり1998年度から一般会計で処理されることになった。郵便貯金の金利収入、たばこ税の増額、国債などの財源だった。要するに国民の負担だ。返済計画期間は60年。あと41年間、国民は国鉄の債務を負担することになる。
国鉄を知らない読者諸君が払う税金も、国鉄の債務返済に使われている。ちなみに、1904年に始まった日露戦争の戦時国債は海外からの借金で、政府はその返済に82年かかった。返済終了したときは1986年だ。担保は関税収入だったと言われている。
関連記事
- 北陸新幹線の新大阪駅、その先をどうするか
北陸新幹線の京都〜新大阪間のルートが確定した。新大阪まで来たら山陽新幹線に乗り入れたい。ただし、岡山から先は九州ではなく、四国かもしれない。関西広域連合と四国鉄道活性化促進期成会が活気付く。ルートは2つ。瀬戸大橋と大鳴門橋だ。 - 電車が遅れたらカネを返せ、はアリか?
ちょっと前の話になるけれど、参議院議員が「電車の遅延度に応じて料金を割り引く制度を提案する」とツイートして失笑された。遅延へのいらだちはごもっとも。しかし、失笑された理由は「目先のカネで解決しよう」という浅ましさだ。 - 夕張市がJR北海道に「鉄道廃止」を提案した理由
JR北海道が今秋に向けて「鉄道維持困難路線」を選定する中、夕張市が先手を打った。市内唯一の鉄道路線「石勝線夕張支線」の廃止提案だ。鉄道維持を唱える人々は「鉄道がない地域は衰退する」「バス転換しても容易に廃止される」という。夕張市の選択はその「常識」を疑うきっかけになる。 - JR九州上場から、鉄道の「副業」が強い理由を考える
JR九州が東京証券取引所に上場を申請した。鉄道部門は赤字のまま。しかし副業のマンションやホテル、飲食店が好調だ。阪急電鉄や東急電鉄の成功以来、鉄道会社は副業とセットで成長してきた。しかしその形態は変化している。小林一三モデルではない、新たな相乗効果を模索する時代になった。 - 「札幌駅に北海道新幹線のホームを作れない」は本当か?
JR北海道が「北海道新幹線の札幌駅は在来線に隣接できない」と言い出した。既定路線の撤回であり、乗り換えの利便性も低下する。札幌市と建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が反発している。JR北海道の言い分「在来線の運行に支障がある」、これは本当だろうか。駅の線路配線図とダイヤから検証してみよう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.