きっぷをカプセルトイで売ってはいけない、なぜ?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
JR北海道の新十津川駅で、地元有志が鉄道ファン向けにきっぷを販売した。JR北海道から正式に購入し、「ガチャガチャ」などと呼ばれるカプセルトイの自販機できっぷを販売するというユニークな手法で話題になったが、JR北海道から中止を求められた。これは観光ビジネスにとって教訓になりそうな事例だ。
はじめからカプセルトイにするつもりはなかった
手応えを感じた町側は、さらに1000枚を追加発行してもらった。イベントでは手売りだったが、今度は「ガチャガチャ」と呼ばれるカプセルトイの自販機を導入した。販売機に200円を入れてガチャッと回すとカプセルが出てくる。カプセルの中身は入場券1枚とおつりの10円玉3枚が入っている。これは遊び心があって面白い。
カプセルトイの販売機は電気を使わないから環境に優しい。きっぷには裏面に通し番号が入っていて「0001」や「0111」など並びの数字が人気だ。わざわざタイミングを計って並ぶ人もいるだろう。しかし、カプセルトイだと数字を選べない。きっぷを買う人全てに公平なシステムといえそうだ。
しかし、この方式を4月18日に北海道新聞が美談として報じると、JR北海道が販売中止を求めた。皮肉なことに、2日後には同紙が「ガチャガチャ」方式中止を報じている。
新十津川町の関係者は「はじめからカプセルトイで販売するつもりはなかった」と話す。最初のイベントでは販売スペースを用意した。しかし、普段は人員を割けず、付近の商店のご厚意で扱ってもらうことになった。80代の老夫婦がのんびりと営んでいる店だ。売りさばく、というようなしぐさは難しい。しかも、きっぷは簡易委託販売のため、店の会計とは別だ。店の商品に加えて入場券を売る場合は、それぞれの手間がかさむ。
1日1往復の列車が到着し、折り返すまでの12分間で入場券を求める客が集まり、さらに店の商品も買ってもらえれば、ありがたいとはいえ対応しきれない。その苦肉の策として、自動で販売する方法を考えた。カプセルトイの販売機は、地元有志が旅先で訪れた土産屋のアイデアをまねた。販売機は遠方の知人から借り受けた。170円を投入できるという都合の良い機械がなかったため、100円玉を2枚入れるタイプにし、カプセルに30円の釣り銭を入れた。
販売は自動だ。しかし手間を省いたわけではない。準備には手間がかかっている。有志が1つ1つのカプセルにきっぷと10円玉を詰めていくのだ。
「はじめからカプセルトイが面白いと思い付いたワケではないんです。入場券の販売に快く協力してくれた老夫婦の負担を小さくしたかった。それなのに、カプセルトイのアイデアの面白さだけが広まってしまった」(関係者)。
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