きっぷをカプセルトイで売ってはいけない、なぜ?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
JR北海道の新十津川駅で、地元有志が鉄道ファン向けにきっぷを販売した。JR北海道から正式に購入し、「ガチャガチャ」などと呼ばれるカプセルトイの自販機できっぷを販売するというユニークな手法で話題になったが、JR北海道から中止を求められた。これは観光ビジネスにとって教訓になりそうな事例だ。
きっぷの裏の番号の意味
ところで、そもそもなぜきっぷに番号が振られているのか。個別の番号がなければ印刷の手順も減り、コストを下げられる。しかしきっぷの番号は必要だ。記事の中で、JR北海道は「売り上げや在庫の管理をするため」と説明している。1日にそのきっぷが何枚売れたか、その集計に使う番号だ。
例えば、前日の締めで一番上にあるきっぷの番号が 0510 とする。これを帳簿に記載して、翌日の締めで一番上の番号を見ると 0512 だった。そうすると、「0512 - 0510 = 2」となって、その日に2枚売れたと分かる。番号を帳簿に記載するときは、きっぷの裏面、つまり番号の面に赤鉛筆などで線を引く。次の日は、この線のないきっぷだけを帳簿に記録すればいいので、全てのきっぷの番号を調べる手間を省ける。きっぷの裏に線が2本あれば「2日間売れなかったきっぷ」というところまで分かる。きっぷのコレクターの中には、この締めの線が多いきっぷを喜ぶ人もいる。
きっぷの番号のもうひとつの意味は、駅員の不正防止だ。この話は180年も昔にさかのぼる。英国で鉄道が営業を始めたとき、きっぷではなく、乗客ごとに伝票を作っていた。乗車駅、下車駅、乗客の氏名、運賃を調べて、全て手書きで処理していた。しかし、列車の運行本数や連結車両数が増えると、この処理ではさばききれない。
そこで、トーマス・エドモンソンという駅長が、あらかじめ行き先ごとにきっぷを印刷して、発行時に日付を入れる方式のきっぷを考案する。駅の数だけきっぷがあり、ズラリと並べてすぐに取り出すために、きっぷは伝票より小さくなった。ただし、小さい紙片はなくしやすいので、堅いボール紙を使った。これが硬券きっぷの始まりだ。エドモンソン式乗車券と呼ばれている。
エドモンソンは特許を取り、世界共通の規格となった。きっぷの裏の番号は伝票乗車券時代の名残で、駅員のきっぷの着服を防ぐために入れられた。180年間もきっぷの裏には番号があり、集計や不正防止の手段だった。鉄道職員にとって、きっぷの裏に番号があり、番号順に売るという手順は当たり前のことだった。
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