日本の生産性が低いのは「たばこ後進国」だから?:スピン経済の歩き方(4/5 ページ)
数年ほど前から「日本企業の生産性が低い」といった話をよく耳にする。労働時間を短縮したり、効率化を図ったり、さまざまな取り組みをしているが、喫煙者の問題はあまり話題にならない。仕事中に「ちょっと一服」と言って、何度も離席する人は生産性がいいのだろうか。
「たばこ」を特別扱いしてきた背景
愛煙家はよくたばこを「嗜好(しこう)品」だという。だったら、酒のように定められた場所で、酒をたしまない人にも迷惑をかけぬように嗜(たしな)むべきなのだが、どういうわけか「たばこ」は会社へ持ち込んで、仕事中であろうが、会議中だろうが、「ちょっと一服」の一言で吸うことが許される。
勤務中に「私は少し酒入れたほうがいいアイデアが出るんでちょっと一杯やってきます」なんて言ったら怒られるのに、なぜかたばこだけは「時と場所を選ばない嗜好品」という特別な優遇措置が与えられているのだ。冷静に考えると、これは非常に不可解なことではないだろうか。
愛煙家の方から「分かってねえな、たばこは文化なんだよ、日本経済の今の発展も素晴らしい文学や名曲もすべて喫煙を楽しむ豊かな心から生まれたんだぞ」というご意見もあるだろうが、そのロジックなら石田純一さんではないが、不倫も文化だし、酒も大麻にもプラス面がある。にもかかわらず、仕事の合間にたばこを嗜むように愛人との逢瀬や酒を酌み交わすことは認められていない。
じゃあ、なぜ我々は「たばこ」を特別扱いしてきたのか。
いろいろな考察があるだろうが、個人的には「戦争」をまだ引きずっているからだと思う。よく愛煙家の中には、米国でかつてたばこが流行したのは「自由」を愛する国だからだ、みたいなことを主張する人がいるが、事実は異なる。
米軍は、たばこを兵士たちの精神安定剤的な役割として積極的にバラまいたのだ
ご存じのように、第一次大戦なんかは今のようなハイテク戦争ではなく、目の前にいる人間を銃剣で刺す肉弾戦だ。まともな精神ではいられない地獄のような世界で、たばこの煙を大きく吸い込んで吐くという行為は、兵士たちの恐怖心を抑えて心を落ち着かせてくれたのだ。
それは日本も変わらなかった。
戦局が悪化して「玉砕」を強いるようになってくればくるほど、兵士や国民に煙草が支給された。東京、大阪、名古屋など主要都市でB-29の空襲が激しくなっていく中で、たばこの産地である熊本では「突撃煙草増産運動」なるものが始まった。
これは「決戦に年始休暇もあるまい」(朝日新聞 1945年1月6日)と銃後の女性たちが休むことなく煙草を生産し続けるというものだが、なぜそんなにしてまで「たばこ」にこだわったのかというと、死の恐怖に襲われながら「突撃」を強いられる兵士たちにとって欠かすことのできない「武器」だったからだ。
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