「只見線」「南阿蘇鉄道」の復旧が遅れた“原因”は何か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
2011年の豪雨災害で不通となっているJR只見線について、JR東日本と福島県が鉄道を復旧して存続させることで合意した。同じころ、16年の熊本地震で被災した南阿蘇鉄道について、政府が復旧費の97.5%を支援する意向と報じられた。復旧決定まで、只見線は6年、南阿蘇鉄道は1年。鉄道復旧に時間がかかる理由は、政府に鉄道専門の財源がないからだ。
南阿蘇鉄道は負担なしで全線復旧へ
南阿蘇鉄道は第三セクターであり赤字経営だ。熊本地震は激甚災害に指定されたため、復旧にあたり国の支援も受けられる。所轄官庁は国土交通省だから、すぐに支援策がまとめられる……とはならず、1年かかった。道路については、2016年7月に阿蘇大橋の架け替えと国道57号線の北側移設が発表されている。それから約1年後、ようやく南阿蘇鉄道の復旧の枠組みがまとまりつつある。
6月13日の産経新聞の記事によると、政府が復旧費の9割以上を補助する支援策を検討している。国土交通省は早ければ22年度の全線復旧を目指し、関係省庁や地元と調整を進めるという。支援に当たっては、路線の維持と経営安定策が必要となり、上下分離化する方針だ。
これは東日本大震災における三陸鉄道の復旧の枠組みと同じ。多くの関係者と鉄道ファンが、三陸鉄道のような復旧の枠組みを求めていた。同日の西日本新聞の記事では、数字を詳しく報道している。国の補助率を通常の25%から50%に引き上げ、残り50%の自治体負担分についても、その9割を「補助災害復旧事業債」とし、国の地方交付税交付金で償還する。これで、自治体負担は総額の2.5%、約1億6000万円となり、南阿蘇鉄道の負担はない。
三陸鉄道の手順を準用すると決めたら、すぐに発表、着手してほしかった。しかし、そう簡単にはいかない。その理由は、国土交通省に鉄道復旧の財源がないからだ。産経新聞の記事にある「関係省庁」について、西日本新聞では「財務省と総務省」と明記されている。お金に関しては財務省、自治体絡みの事業の枠組み、法令整備は総務省が承諾しないと進まない。6月14日の熊本日日新聞は「財務省は特例措置の導入に当たり、復旧後の同鉄道の持続可能な経営見通しを要求」とハッキリ書いた。
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